精選
文学国語

明治書院

目次

明治書院版drilln
  • お使いになる前に
  • お使いになる前に
    お使いになる前に
  • 指導資料 構成と内容・執筆者一覧
    指導資料 構成と内容・執筆者一覧
  • 単元の目標一覧
    単元の目標一覧
  • 学習課題ノート(前編・後編)解答
    学習課題ノート解答
  • 教科書本文PDF
    ダウンロード
  • 付録(ZIPファイル)
    原文データ(一太郎)
    (旧版)『構成 読解ノート(小説・評論)』PDF
    ダウンロード
  • ダウンロード
  • 明治書院オリジナルフォント(ZIPファイル)
    ダウンロード
1小説入門
言葉によって大江健三郎
コラム小説文の形式
悪童日記アゴタ・クリストフ
山月記中島敦
文学の窓小説とは何か三島由紀夫
単元の言語活動1小説の方法を読む
2詩歌入門
詩の自由を探る藤井貞和
秋の祈高村光太郎
雪三好達治
汚れつちまつた悲しみに中原中也
崖石垣りん
文学の窓詩的リズムー音数律に関するノートー菅谷規矩雄
単元の言語活動2〈詩らしさ〉を探る
3文学の境界を広げる
鞄安倍公房
コラム〈文学〉の領域を更新する
地球から来た男星新一
押絵と旅する男江戸川乱歩
マンガは哲学する永井均
文学の窓映画の中の花西川美和
単元の言語活動3さまざまなメディアに生息する〈文学〉を発見する
4言葉の力
こころ夏目漱石
夏目漱石・芥川龍之介往復書簡夏目漱石・芥川龍之介
山東京伝内田百閒
「東京語」の表象の成立イ・ヨンスク
文学の窓群れず集まる田中和将
単元の言語活動4言葉には不思議な力があることを確かめる
5伝統と革新
短歌の輪郭ー現代にとって短歌とは何かー小池光
短歌十二首釈迢空・山崎方代・塚本邦雄・馬場あき子・栗木京子・穂村弘
文学の窓『桐の花』の言葉俵万智
俳句十二句村上鬼城・河東碧梧桐・尾崎放哉・原石鼎・杉田久女・芥川龍之介・高野素十・後藤夜半・川端茅舎・中村汀女・篠原鳳作・高屋窓秋
コラム川柳の現在
単元の言語活動5俳句を詠んでみる
6戦争と記憶
現場に来て初めてわかること高野秀行
空缶林 京子
野火大岡昇平
転移する記憶岡 真理
単元の言語活動6戦争という〈出来事〉を伝える
1都市と移動
本を読む蜂飼耳
コラム本を読む楽しみ
檸檬梶井基次郎
文学の窓陰翳礼讃谷崎潤一郎
下町(ダウンタウン)林芙美子
歩道橋の魔術師呉明益/天野健太郎訳
都市は/を語る石田英敬
単元の言語活動1暮らす、生きる、そしてそれを描く
2自然を見る、自己を見る
流れる髪永瀬清子
羨望伊東静雄
独楽高野喜久雄
韜晦多田智満子
高度小池昌代
文学の窓秋ライナー・マリア・リルケ/茅野蕭々訳
単元の言語活動2自然と自己との関係を考える
3文学と歴史
舞姫森鷗外
みづの上日記樋口一葉
文学の窓日和下駄永井荷風
入れ札菊池寛
コラム文学の歴史について再考する
物語と歴史のあいだ野家啓一
単元の言語活動3なぜ名作は「名作」なのか
4自他への配慮
巨人の接待小川洋子
はじめての沖縄岸政彦
アイデンティティ藤野可織
愛について竹村和子
コラムマイノリティと文学
単元の言語活動4あなたはみんなと同じか、あなた自身と同じか
5抒情の探究
短歌十四首木下利玄・会津八一・岡井隆・河野裕子・福島泰樹・水原紫苑・斉藤斎藤
俳句の力学岸本尚毅
俳句十二句高浜虚子・加藤楸邨・石田波郷・桂信子・森澄雄・飯田龍太・三橋敏雄・飯島晴子・高柳重信・池田澄子・正木ゆう子・田中裕明
文学の窓底荷上田三四二
単元の言語活動5自分で選んだアンソロジーを作る
6近現代を問う
一瞬の共同性を生きる星野智幸
苦海浄土 ―もう一ぺん人間に―石牟礼道子
日本文化私観坂口安吾
現代日本の開化夏目漱石
単元の言語活動6近現代の諸問題と対話する
  • web国語の窓
    web国語の窓
  • 編修趣意書・内容の特色・シラバス案
    編修趣意書・内容の特色・シラバス案
  • 副教材のご案内
    副教材のご案内
  • お問い合わせ
    お問い合わせ

言葉によって大江健三郎

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 筆者の経歴を紹介する。
  2. 文章を通読させ、全体の構成を理解させる。
  1. 筆者の経歴を学ぶ。
    筆者紹介の際には、代表的な小説作品のあらすじについても触れ、生徒が図書館などで手に取ってみることを促したい。
  2. 全体を通読し、語句の意味を確かめる。
    冒頭に「作家は言葉によって人間を捉えようとする」とあるが、絵画、音楽、映画などではどうかなど、他の芸術表現との比較を通じて、理解を深めさせることもできる。
  3. 全体の構成を考えて、段落分けをする。
展開
  1. 第一段で、小説は人間を実在させるという主張を理解させる。
  2. 第二段で、小説は個人を描くことで普遍にいたるという主張を理解させる。
  3. 第三段で、小説は現実や歴史への参加と結びつくという主張を理解させる。
  4. 第四段で、作者と小説の登場人物の関係について考えさせる。
〈第一段〉(初め~七・13)
  1. 存在、行動、想像力の関係について、辞書や事典を活用して整理する。知技
    存在、行動、想像力の定義は本文に書かれていない。辞書や事典などを用い、言葉のあいまいな理解を明確にする習慣をつけさせたい。
  2. 小説は言葉によって人間を実在させる、という筆者の主張について考える。
    ペアやグループで、相手が知らない知人について紹介させてみてもよい。
〈第二段〉(七・14~八・17)
  1. 『おもろさうし』や「うりずん」について調べる。
    「うりずん」の解説の際には、「鉄の暴風」と呼ばれた沖縄戦の実情にも触れたい。大城立裕、目取真俊、崎山多美などの沖縄文学を紹介してもよい。
  2. 小説は個人を描くことで普遍にいたる、という筆者の主張について考える。
    ペアやグループで、個人を描くことが時代全体の表現につながるという主張について議論させてもよい。その際は、筆者の代表作の一つである『個人的な体験』などを紹介し、さらなる学習を促したい。
〈第三段〉(九・1~九・13)
  1. 歴史という言葉について、辞書や事典を活用して整理する。
    歴史という言葉も本文で定義なしで用いられている。辞書や事典などを活用し、普段当たり前に使っている言葉の意味について考えさせたい。
  2. 小説は現実や歴史への参加と深く結びついている、という筆者の主張について考える。
    第三段の主題は、言葉によって不在のものを実在させることが、現実や歴史への参画につながるということである。ただし、明示的には書かれていないので、「うりずん」の例を深く掘り下げて考えさせるなど、教員の工夫が必要になる。
〈第四段〉(九・14~終わり)
  1. 「本当の他者」の意味について考える。
    「本当の他者」と書いてあるがそれでは偽物の他者とは何だろうか、といった導入で、筆者の主張を段階を踏んで理解させたい。
  2. 作者と小説の登場人物の関係について考える。思判表
    登場人物の作者からの独立という問題は、「キャラが立つ/立たない」といった言い方で生徒たちには馴染みがあるかもしれない。議論の過程で、「本当の他者」の導入は、この世界を多様な観点から見る条件でもあることを理解させたい。
まとめと発展
  1. 本文の主張についてまとめさせる。
  2. 自分が抱く小説のイメージと本文の主張との共通点と差異について議論させる。
  1. 言葉と文学の関係についてまとめる。
    「深い学びのために」を利用して、筆者の主張を振り返らせる。
  2. 自分が抱く小説のイメージと本文の主張との共通点と差異について議論する。主態
    まとめを踏まえて、自分が抱いている小説のイメージとの共通性や差異について議論させる。議論の前に、筆者の見解が唯一の正解でないことも伝えておく。

悪童日記アゴタ・クリストフ

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 作者の説明と、「悪童日記」が長編小説の一部抜粋であることを把握させる。
  2. 全体を通読させたうえで、「ぼくらの学習」から、この小説文の書き方について理解させる。
  1. 作者のアゴタ・クリストフがハンガリー人であり、亡命先のフランスで、外国語であるフランス語を用いて書いていることを理解する。
    ハンガリー語とフランス語は大きく違う言語である。本作品の文章は簡潔であるが、母語ではない言語で書いていることも影響していると思われる。ハンガリーやオーストリア、スイスなどの位置関係を地図で把握させるとよい。
  2. 「僕らの学習」に書かれている「客観的な叙述の仕方」とはどのようなものか、理解する。
    「ぼくら」の作文で禁じられている文の例と、「良」とされている文の例を比較検討するとよい。
展開
  1. 小説文には出来事を叙述してストーリーを進める文や、描写・説明があることを理解させる。
  2. 小説文では説明するのではなく、描写や場面によって読者に解釈をさせることを理解させる。
  3. 客観的な書き方と主観的な書き方があること、心情を書く場合と書かない場合があることなどを理解させる。
〈第一段〉おばあちゃんの家に到着する
  1. 描写部分と説明の部分を指摘する。また、その描写からどんなことを読みとれるか考える。知技
    小説は説明をするのではなく、描写によって読者に解釈をさせることが多い、という点を生徒に意識させたい。それによって、これからさき小説文の読解の際に何をやっているのかを、自覚させる。
  2. 視点が「ぼくら」にあることを確認する。
    「視点」と「内面」は必ずしも同等ではない。本作品のように、視点人物の内面を表出しない方法もある。内面は書かれていないが、それでも「おばあちゃんの家に到着する」では、おばあちゃんの声がすることを「別の声が聞こえる」と書いており、「ぼくら」の視点から書かれているのは明らかである。
  3. この先どのような展開になるかを想像する。ストーリーが時間的展開や因果関係につながっていることを確認し、小説文を読んでいるときにはいつも先の展開を予測しながら読んでいることを意識する。
    このシーンでは、「ぼくら」が「おばあちゃん」の家で育てられることが予告されている。「おばあちゃん」のセリフから、そのキャラクターを解釈させ、町からきた「ぼくら」と対比させると、この先どのような展開になるか予測させやすい。予測があっているか、あっていないか、と問いかけておくのもよいだろう。
〈第二段〉(ぼくらの学習)
  1. 「ぼくら」の作文のルールを確認する。
    「うりずん」の解説の際には、「鉄の暴風」と呼ばれた沖縄戦の実情にも触れたい。大城立裕、目取真俊、崎山多美などの沖縄文学を紹介してもよい。
〈第三段〉(おかあさん)
  1. 第一段と読み比べて、話の展開を確認する。
    第一段の段階から、第三段ではどのような変化が確認できるだろうか。「おかあさん」の状況も異なるし、「おばあちゃん」の「ぼくら」に対する態度も違う。「ぼくら」も成長しているが、書かれているのは行動だけである。その行動からどのようなことを読みとれるか考えさせる。
  2. 凄惨な場面が描かれているが、その書き方を確認し、どのような効果をあげているか考える。
    「ぼくら」の行動は、母親が死んでいるにもかかわらず、冷静に見える。淡々とした文章で悲惨なことが書かれていることをまず理解させたい。
まとめと発展
  1. 小説文の形式について、改めてまとめさせる。
  2. 書き方に意識的になって、小説文を書かせる。
  1. 描写・説明・出来事や、内面の表出法、視点の取り方などをあらためて理解する。思判表
    ここまで学んできたことを、総合させて理解させたい。
  2. 書き方を考えながら、文章を作ってみる。主態
    可能であれば、課題の講評(フィードバック)も行いたい。あまり長文だと難しくなるので、短めの文字数にするとよいだろう。

地球から来た男星新一

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. SFジャンルの作品の特徴を理解させる。
  2. 星新一の作品の特徴を理解させる。
  3. 構成を意識しながら、作品を読ませる。
  1. 既に読んだ作品の中で、SFジャンルのものを思い起こし、その作品の構成について考えてみる。知技
    他の作品の中で、「地球から来た男」でのテレポーテーション装置、地球とそっくりの惑星のような設定がなかったかを思い起こさせる。その設定に説得力があるか、その設定が作品の中でどのように生かされているかを考えさせる。
  2. 既に読んだ星新一の作品があれば、その粗筋を発表する。
    読書入門として人気の高い作品を多く残した作者であるから、どのクラスにも彼の作品を読んだ生徒がいると思われる。彼の作品名をあげて読んでいるかを生徒に問いかけてみる。挙手した何人かの生徒を指名し、その作品の粗筋を発表させる。発表が他の生徒に理解されているかを確かめ、その作品の設定について補足する。発表がその作品の意図や面白さにふれ、他の生徒を引き込むものであれば、その生徒の「話す力」を褒め、さらに他の生徒の発表を促す。
  3. 学習のポイント1の問いを意識して、本文を読み始める。
展開
  1. 作品の特異な設定を理解させる。
  2. 作品の設定の中で話を読み進めることを意識させる。
〈第一段〉(初め~五九・下8)
  1. 第一段落を読み、主人公が語る、彼がおかれた特殊な状況を理解する。
    他の惑星に追放されたというのに、主人公が「…まだましかもしれない」(五九・上2)、「…少しでもおそいほうがいいというものだ」(五九・上9)、「おれはまた寝そべり、空を見上げた」(五九・上12)のように、比較的楽観的であることに注意させる。
  2. 主人公の望郷の念に注目して、文章を読み進める。
    自分がおかれた環境に対しては楽観的なのに、「なんという残酷なことだ」(五九・下3)と嘆くのは、「どっちをむいて望郷の念を抱けばいいのか」(五九・下1)わからないことであり、過去の記憶は消されないまま、「なにもかも思い出せる」(五九・下8)ことであるのに着目させる。
  1. 主人公がどのような人物として設定されているかを理解させる。
  2. 主人公の性格を読み取らせる。
〈第二段〉(五九・下10~六一・下9)
  1. 第二段落を読み、主人公の職業、今回課せられた仕事を理解する。
    上役に呼ばれ、産業スパイとなることを依頼された主人公が、危険を伴う仕事であるのにもかかわらず、「まあ、なんとかやってみましょう」(六〇・上11)と、気楽に引き受けていることに注目させる。
  2. 主人公が受けた処罰がどのようなものか、その時の主人公の心情がどのようなものか読み取る。
    保安部門の責任者に尋問される主人公は、「まあ、そんなところで」(六〇・下2)と、あっさり産業スパイであることを認め、「地球外へ追放する」(六〇・下20)と言われて、「まさか……」(六〇・下21)と笑いかける。ところが、テレポーテーション装置が存在し、ほかの星に追放されることが現実となって、必死にあばれ抵抗している点を読み取らせる。自分のおかれている事態がわかった主人公が、「わたしには妻子もある。別れの言葉もかわせないなんて」(六一・上15)と言っていることに着目させる。
  1. 主人公が、次の行動に移る動機、この惑星について知識を深めていく過程を読み取らせる。
  2. 主人公の故郷への想いを理解させる。
〈第三段〉(六一・下11~六五・下3)
  1. 第三段落を読み、主人公が、この惑星が地球と同じであることを確かめる過程を読み取る。
    言葉が通じて、「ありがたかった」(六二・上12)と思う主人公は、地球と同じ景色に親しみを感じるが、一方、異様な気分も押さえきれず、「心のなかが、むずむずする」(六三・下4)。自分の家で自分そっくりの人物と暮らす妻子に出会い、同情する。さらに、「ここは地球と同じすぎる」(六四・下18)、「なにかちがった点があるかと気をつけて調べた」(六五・下1)というように変わっていく。こうした主人公の心情に注目させる。
  2. 追放された惑星で、主人公が変化のない毎日をつづけることになるのはどうしてなのか、考える。
    会社で上役に報告する主人公は、自分が処罰されこの惑星に追放されたことは言わない。また、かわりの者を派遣しようと言われ、「地球にいるような気分」(六五・上14)で第二の犠牲者が出ることを心配し、反対する主人公の反応に着目させる。
  1. 主人公にとって、この惑星の住み心地はどのようなものであったのか、読み取らせる。
  2. 作品の結びについて考えさせる。
〈第四段〉(六五・下5~終わり)
  1. 第四段落を読み、主人公が医者にありのままを話し、保安部門の責任者にすがった結果と、その時の主人公の心情をを読み取る。
    自分の孤独を医者には理解してもらえず、保安部門の責任者に地球に帰る方法がないのを知らされ、それでもこの異郷に順応することもできない主人公の気持ちが、「心を持てあましている」(六七・上16)と書かれている。この心情を自分も味わえたかどうかを生徒に問いかける。
  2. 主人公の地球への思いはどのようなものなのか、考える。思判表
    少しだけ心の休まるのは、地球で税務署員だったという男と、〈地球人の会〉で酒を飲み地球のことの思い出を話しあう時だけだという。住みごこちは悪くないのに、心が休まらないのはどうしてなのか、生徒に考えさせる。
まとめと発展
  1. 作品の主題について考えさせる。
  2. 主人公がおかれた、特殊な環境設定の意味を考えさせる。
  3. 作家や作品への理解を深める。
  1. 感想を話し合い、話し合った内容をまとめて発表する。主態
    故郷を懐かしむのは、その景色、その食べ物などによるのだろうが、この作品では、なにもかもが同じ環境にいながら、主人公は故郷の地球での思い出を語り合うことを、唯一の慰めとしている。故郷はものではなく、表面上の人間関係でもなく、自分の心のあり方がそこを故郷と思わせるのかもしれない。学習のポイント3に取り組むことをきっかけに、感想を深めることもできる。地球そっくりの惑星で出会った妻子と、思い出や夢の共有はあったのだろうか。主人公は、その惑星の妻子に愛情を感じることはなかったのだろうか、生徒に問いかけてみることも考えられる。
  2. すべてが地球そっくりの別の惑星があるとして、そこでの生活がどのようなものか、想像してみる。
    追放されたのが地球そっくりの惑星であったことで、故郷という存在が、単なる「もの」でないことがわかる。改めて、故郷とはどのようなものかが問いかけられていることを生徒に指摘する
  3. この作家の別の作品を読み、この作品と比較してみる。
    学習のポイント2、言語活動1に取り組ませ、この物語を膨らませることも可能である

山月記中島敦

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 「山月記」の全体構成を把握させる。
  2. 漢文訓読体の特徴をつかませ、文章を味わう。
  3. 語句の理解から物語全体の流れと意味をつかませる。
  1. 「人虎伝」を典拠とする「山月記」だが、その題名は大きく変わっている。題名からイメージされる情景や雰囲気などを語らせ関心を引き出す。
    題名においては、「山」や「月」はどのような情景を思い浮かべるか考えさせ、なぜ「人虎伝」の「伝」と異なり「記」なのかなど、それぞれの関心から自由に意見を交換させる。これまでの読書体験から好きな小説やそのジャンルについて話し合わせるのもよい。また、他に人間が動物へ変身する小説(カフカ「変身」、安部公房「棒」など)を挙げさせ、「山月記」とのイメージの異なりを話し合わせ、主体的な読解への参加を促す。
  2. 作家・中島敦やその作品について知っていることや、印象について語り合う。
    作家やその作品については事前に調べることを課題とし、簡略的な説明と文学史的な位置づけについて補足する。
  3. 漢文訓読体の文章を味わい、その特徴について考える。知技
    漢文訓読体の文章は漢語の難解さから学習者に苦手意識を与える恐れがある。このような場合、読むことの困難は前提として、朗読や部分的な暗誦することで全体のリズムや流れを身体感覚としてつかんでいくのがよいだろう。CD教材を利用し通読させることで、物語全体の把握に役立てることができる。またわからない語句や表現については次回までに調べておくことを課題とする。
  4. 構成ならびに登場人物について把握させる。
展開
  1. 難解な語句の確認と、時代背景を理解させる。
  2. 李徴の来歴と人物像をとらえる。
〈第一段〉(初め~二一・11)
  1. 漢語を中心とした難解な語句の理解と文意の解釈を進める。
    難しい語句に関しては事前に各自で調べさせておく。また音読の際には、正しく読めているか確認する。
  2. 作品の時代背景や地理的な関係と、登場人物を把握する。知技
    「天保の末年」という時代状況、また登場人物が関連する地名を確認させる。李徴のであれば本籍である「隴西」、そして「江南尉」となるが「虢略」に隠居すること、袁傪は「陳郡」の出身であり、「監察御史」として「嶺南」に訪れていることを、都である長安との位置関係も含め地図を見ながら確認させる。
  3. 李徴の性格を本文内容からまとめ、発狂するまでの心情を考える。
    文中から、李徴の人物像を把握させ、失踪までの過程をまとめさせる。特に、この部分で示される李徴の性格や詩業への思いがどのように語られているか確認させ、発狂後の展開の理解につなげさせる。
  1. 李徴と袁傪の関係性をとらえる。
  2. 聞き手の役割を考える。
〈第二段〉(二一・12~二三・5)
  1. 袁傪の人物像についてまとめるとともに、李徴との関係性がわかる部分を書きだす。
    「監察御史」について説明したうえで、袁傪の「監察御史」としての官僚の出世の道と、李徴の来歴を比較しつつまとめさせる。同様に、李徴と袁傪は性格についても対比的に語られており、このように対比的に語られる意味について考えさせる。
  2. 聞き手としての袁傪の役割と、「」の部分の意味を考えさせる。
    李徴は虎としての姿を現さず、「人語」を操る虎の「声」として語られている。この虎の声を「李徴子」として、「不思議」であることを強調しつつも受け止める袁傪の聞き手としての立ち位置によってこの会話が成立していることに気付かせる。また本文で「」の直接言説となっているのは第二段の三か所のみで、この三か所以外は語りの主格が不透明な自由間接言説であることが示されている点に注意させる。
  1. 虎になるまでの経緯をまとめる。
  2. 李徴の告白の内容を理解する。
〈第三段〉(二三・6~二五・6)
  1. 発狂し虎となるまでの経緯を本文の言葉からまとめる。思判表
    虎でありながら虎の意識と人間の意識とを持つと語る李徴の特殊な状況に置かれた心情やその悲哀や混乱を想像させる。
  2. 李徴が虎となった恐怖心から、その経緯を「さだめ」として受けとめていく過程を理解させる。
    発狂に至る「行動」と「心情」の両方が語られていることに注意する。「自分の中の人間」や「人間の心」など頻出する「人間」という語から〈人間であるとはどのようなことか〉、李徴はどのような存在を「人間」として考えていると語られているかについて考えさせる。
  1. 李徴の詩に対する思いを理解する。
  2. 袁傪の評価について考える。
  3. 即興詩を味わう。
〈第四段〉(二五・7~二七・6)
  1. 袁傪に詩の伝録を依頼するときの李徴の心情を考えさせる。
    詩業を残したいと考える李徴の切実な心情を理解させる一方で、「元来詩人として名を残すつもりでいた」と述べる李徴が当初「江南尉」であったことも思い出させ、詩人と官吏の関係性についても考えさせたい。
  2. 袁傪の「どこか(非常に微妙な点において)欠ける」という詩への評価について、本文に即して考えさせる。
    第三段の李徴の告白を重視する文脈からは李徴の〈人間性の欠陥〉に焦点が当てられがちだが、本文に即してみればこの袁傪の評価には根拠が示されていない。袁傪の価値観が反映されることを押さえ、その意味を考えさせたい。この一文については学習者に自由に意見交換させ、活発に議論させたい。
  3. 即興詩の内容を理解させる。
    現代語訳させ、内容と李徴の心情を理解させる。
  1. 李徴の認識の過程を理解する。
  2. 虎となった李徴の心情をとらえる。
〈第五段〉(二七・7~二九・9)
  1. 「臆病な自尊心」「尊大な羞恥心」の意味について考える。思判表
    「臆病な」「尊大な」が「自尊心」「羞恥心」と矛盾した撞着語法となっていることを理解させ、それが本文において具体的に語られている部分を指摘させる。一方で、李徴の性格を原因として虎への変身を必然的に受け止めるのは李徴自身の認識であって、事実そうであったかという根拠は本文で示されていないことも注意しておきたい。
  2. 虎として「ほえる」李徴の心情をその意味を考えさせる。
    月に向かって「ほえる」情景を思い浮かべさせるとともに、通じない「声」や「理解」されないこと、本文におけるコミュニケーションの在り方についても想像させたい。
  1. 妻子への配慮を依頼する李徴の心情を考える。
  2. 「人間」という言葉について自分の考えをもつ。
〈第六段〉(二九・10~三〇・11)
  1. 李徴が妻子への配慮よりも詩業について気にかけた理由について考える。
    第一段にある「妻子の衣食のためについに節を屈し」との対応を確認させる。また「人虎伝」では先に妻子のことを気にかけ、その後詩の伝録を依頼することの差異を見出してもよいだろう。前段まで李徴は虎になった理由を「臆病な自尊心」と「尊大の羞恥心」としていたが、この段落では、妻子よりも詩業を気にかけることを理由としており、「人間」とは何かという、認識が移行していることも押さえたい。
  2. 「人間」という言葉に込められた思いについて自分の考えを持つ。
    李徴は一度官を退いた後、生活のために「地方官吏」となったこと、失踪後一年たった今も妻子の現在の居場所(「彼らはいまだ虢略にいる」)を把握している可能も押さえておきたい。そのうえで、李徴の告白した〈人間性の欠如〉が自らを虎としたという認識が正確であったかも考えさせる。
  1. 別れの情景を想像し、その終わり方の印象を考える。
〈第七段〉(三〇・12~終わり)
  1. 別れ際に虎になった姿を見せた李徴の心情と、末尾の描写における咆哮の効果について考える。
    第五段において同様に「月に向かってほえた」部分と比較検討させる。
  2. 情景や月の描写の効果について想像させる。
    本文における月の描写を確認させる。「残月」「月に向かってほえた」「月を仰いで」など、怪異性を示すとともに、時間の推移を表すことで特殊な空間を演出している。また李徴が発狂するのも「ある夜半」である。題名にもなっている「月」の効果について、全体を総括して考えさせたい。
まとめと発展
  1. 自分の読みを深める。
  2. 小説の虚構性について考える。
  3. 作家や作品への理解を深める。
  1. 感想を話し合わせる。
    李徴が虎へと変身した理由を中心に、自身の意見と感想を話し合わせる。話し合いによって、自身の読みを深めさせる。作品の感想を書かせる。
  2. 小説の虚構性について考える。表現上の特色についての考えをまとめる。主態
    「山月記」は漢文訓読の文脈を汲む作品であるが、その表現が強く出る第一段から、李徴の内面が語られるそれ以降では語調の変化が感じられる。このような語り方の変化の意味についてその体感も含め考えさせたい。また「山月記」は主格の不透明な語り手が部分的に直接言説の「」を使いながらも、全体を代弁する語り手が物語を成立させており、そこにはある価値観がはたらいている。このような語り方も虚構の作品の効果ということができる。虚構の作品の特徴についての考えをまとめさせる。
  3. 作家や作品に即した展開について深く知る。
    「山月記」は当初「狐憑」「木乃伊」「文字禍」の四編をあわせ「古譚」にまとめあげられたものであった。作家の想定を考慮すれば、学習者に「山月記」とともに「古譚」(一編のみ選ぶとすれば「文字禍」がよい)の資料配布で学びを深めることができる。また典拠となった「人虎伝」を紹介し、その比較から差異を見出し、「山月記」の特色を抽出させることもできるだろう。

詩歌入門

詩の自由を探る
秋の祈
雪
汚れつちまつた悲しみに
崖
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
詩の自由を探る藤井貞和
導入
  1. 作者(筆者)について予備知識を持たせる。
  2. 本文の理解に必要な語句や用語を調べさせる。
  3. 文学史、とくに韻文の歴史の概要を理解させる。
  1. 作者(筆者)の来歴や執筆活動について学び、古代から現代までを見渡して「詩」とは何かを問う視座について理解する。
    本教材では現代詩にまで繋がる詩歌の歴史に触れているが、文学史の正確な知識を身につけることが目的ではない。筆者の藤井貞和は、むしろ固定的な文学史記述を疑い、一般的に「詩」について考える際の固定観念をもあぶり出そうとしている。学術的な評論を読む際の論理性だけでなく、詩人ならではの含蓄に富む表現にも注意させるため、可能なら筆者の詩作品も紹介するなどして、準備に繋げたい。
  2. 脚注にあがっている語句や人名を確認する。知技
    万葉集、古今集など文学史上の著名な歌集や、柿本人麻呂、大伴家持といった歌人について、古典の教科書なども参考にしながら確認させる。どのような歌が載っていたかなども思い出させておきたい。
  3. 教師の指示のもと、便覧などを参照して、歌垣や相聞歌、歌合など本文中で触れられている詩歌のあり方を調べる。主態
    歌垣や相聞歌、歌合など本文中で触れられている詩歌のあり方について調べさせる。本文の記述は、それらが「うた」であっても「うたわない」形で発展してきたという、一般的な思い込みを覆す内容であるため、そのことを理解しやすいように導くことが重要である。
展開
  1. 全体を音読し、概要を理解させる。
  2. 三つの意味段落に分けさせ、構成を把握させる。
  3. 第一段を精読し主旨を理解させる。
  4. 「深い学びのために」を活用する。
  5. 第二段を精読し主旨を理解させる。
  6. 第三段を精読し主旨を理解させる
  1. 音読しながら、本文が何を問いかけようとするのかを考える。
    一般に、学修者は、「詩」を一つの確立した文芸ジャンルとして理解している。しかし実際には原理的な曖昧さがつきまとう概念であることを、経験や実感に即して考えさせたい。
  2. 教師の指示のもと、本文を三つのパートに分ける。
    本指導案では、第一段を初め~三七・16、第二段を三七・17~三九・2、第三段を三九・3~三九・10として整理している。「構成」および「板書例」参照。
  3. 第一段(初め~三七・16)を読み、「詩」や≪詩らしさ≫について考える。
    第一段は、日常的に私たちがどのようなものを「詩」と見なしているか、また≪詩らしさ≫を感じているかを手掛かりに、「詩とは何か」を問う段落である。学修者各自の≪詩らしさ≫の感覚を引き出しながら読み進めたい。
  4. ③の作業との関わりで、「深い学びのために」の「学習のポイント」に取り組む。思判表
    「詩でなくて詩的散文だよ」(三七・7)という批評が何を意味するのかを話し合わせる。本文では、そのような批評には実は実体的な根拠はなく、「詩」とは感じる側の問題であることが示唆されているが、「詩」と「詩的散文」の違いを各自がどのように感じるのか、周囲との違いを含めて体感させる。
  5. 第二段(三七・17~三九・2)を読み、詩の歴史について学ぶ。
    一般的には混用されている「うたう」と「詠む」がはっきりと区別されていることが、文学史記述に関する本教材の特徴である。「解説」および「参考」参照。
  6. 第三段(三九・3~三九・10)を読み、現代詩の特徴や可能性について考える。
    近現代詩において、最も≪詩らしさ≫を演出するのが改行という形式だが、それを形式の問題だけで終わらせず、目に見えない形で潜在している「うた」の可能性をそこに見出そうとしていることが重要だろう。
まとめと発展
  1. 〈詩歌入門〉の単元の他の詩篇への関心を促し、ジャンル全体の捉え方を意識させる。
  1. 単元内の他の詩篇ざっと黙読し、印象の違いを書き留めるなどして、各詩篇の精読に備える。
    単元の言語活動「〈詩らしさ〉を探る」は、直接的には他の収録詩篇を扱うが、本教材で提示された、現代詩を成り立たせているものの捉えがたさを念頭に作業できるように導きたい。
秋の祈高村光太郎
導入
  1. 作者の略歴と文学史的な位置を理解させる。
  2. 本文を朗読し、内容を摑ませる。
  3. 読解に必要な語句の意味を確認させる。
  1. 作者の略歴や文学史的な位置について理解する。
    まずは近代詩における高村光太郎の位置を簡単に把握させる。本教材は文学史的に重要な詩集『道程』に収録されたものである。『道程』の成立は高村光太郎の実人生との密接な関わりのもとに解説されてきたが、本単元の中でこの詩を読むに当たっては、まずは高村が口語自由詩の先駆的詩人であること、『道程』がその記念碑的詩集であることをおさえておけば十分だろう。
  2. 教員の指示に従い、詩の本文を朗読する。
    「多端紛雑」など難しい熟語が出て来るが、そのままの形では辞書などにも載っていない。まずは朗読して本文の概要を摑ませ、脚注などを確認させる。その上で、特定の難解な用語に関しては読み解きを進めながら解説したほうがスムーズであろう。この詩の漢語・熟語の多用は「深い学びのために」の「学習のポイント」とも関わる。
  3. 辞書などを用いて読解に必要な語句の意味を確認する。知技
展開
  1. 第一連の内容について、冒頭で「秋」の美しさが印象的に提示されていることを確認させる。また、「童子」の意識について理解させる。
  2. 第二連前半の内容について、過去から現在への接続を「われ」がどのように受け止めたかを確認させる。また、「いのる」という心情の内実について考えさせる。
  3. 第二連後半の内容について、自然描写と、「われ」の感動との対応関係を理解させる。また、感動の高揚を表す文体の特徴に注目させる。
  1. 第一連の内容について、冒頭で「秋」の美しさがどのように提示されているかを確認する。その美しさに魂やこころが揺り動かされ、「われ」が「童子」の意識になることを理解する。
    冒頭で、「秋」は抽象名詞であるにもかかわらず、「秋」自体が音として空に鳴り響いているかのように印象的に表現されていることに注意させたい。状況としては秋の空が晴れて美しいということなのだが、語り手は、空の明澄さに「秋」そのものが漲っているように感じているのである。第二連以降、「われ」が素直に過去や自然へ思いを巡らせることができるのは、第一連でこの圧倒的な美しさに打たれ、「童子」のようになったからであることを確認させたい。
  2. 第二連前半の内容について、多難だった過去を「われ」が肯定的に受け止め、自らが生きてきた歴史としての「道程」を「祝福」できるようになった様子を、表現に即して確認する。また、「奮然としていのる」「いのる言葉を知らず」という二行に示された心情の内実について解釈する。
    これまで多くの悩みを抱えながらも懸命に生きてきたという「道程」があるからこそ、「われ」は感動を覚えている。高村の代表詩集のタイトルである「道程」という言葉が出て来ることに気がついてほしいが、とはいえ、高村自身がどのような過去を持ち、具体的にどういった苦難があったかは読解に不可欠な情報ではない。かつては生きづらい時期もあった「われ」が、今、大きな自己肯定の感情に包まれていることが重要である。また、「奮然としていのる」「いのる言葉を知らず」の二行の連なりは、末尾でも繰り返されるこの詩のキー・フレーズである(「発問例」、「語句の研究 キー・ポイント」を参照。)
  3. 第二連後半の内容について、「木の葉」「獣」「雲」「草」などの自然描写と、「われ」の感動の内実との対応関係を表現に即して理解する。また、感動の高揚が、文体上はどのように工夫して表現されているかに注目する。思判表
    周囲の自然に対する、「~を見」「~を見」の連続がさらなる高揚感を表現していることに注意させたい。この点に関しては、「深い学びのために」の「学習のポイント」とも関わる。また、「因果歴歴の律」の概念について丁寧な説明が必要であろう。目の前のこの美しい世界は自然の法則にしたがって、あるべくしてそこにあるのだという感慨が、自分もまたこの自然の一部として懸命に本分を尽くさねばならないという「責」や「おそろしさ」の感覚とも繋がってゆくことをおさえておきたい。
まとめと発展
  1. [展開]3との関わりから、「深い学びのために」の「学習のポイント」に取り組ませる。
  2. [解説][参考]などを参考に、作者の生きた時代や作品の背景を学修させる。
  1. 詩篇全体を通して、用いられている表現技法と内容との関わりを考え、話し合う。
    一般に口語自由詩は、詩人の内面の感動や衝動、またその都度の情緒を真に迫ったリズムで表現することを目指してきた。本作は、言葉の及ばないほどの感動を何とか表現しようとし、それが詩篇全体の勢いや迫力を生んでいる点で、口語自由詩草創期の傑作と言えよう。詩篇のどこに勢いや迫力を感じたかを話し合い、分析や鑑賞の力を培ってほしい。
  2. 作者の生きた時代や作品の背景を参考にして考え、話し合う。主態
    「われ」という人間を全的に生かしてくれる自然の描かれ方については、高村の〈自然〉観を参考にすることで、より発展的な展望に繋がる。これについては、高村の留学経験や、妻となる長沼智恵子との出会いなど、高村自身の実人生を参照しながら様々に論じられてきた。背景を学ばせる際は、「解説」「参考」を参照されたい。
雪三好達治
導入
  1. 題名を通して詩のイメージを捉えさせる。
  2. 構成を理解させる。
  3. 主題を捉えさせる。
  4. 語り手の位置を理解させる。
  1. 「雪」の持つイメージに留意しつつ、朗読する。
    すぐに独自の世界を汲み取ることのできる生徒は少ないだろう。しかし、何度も読むことがよりよい理解に繋がることを告げる。
展開
  1. 「太郎」「次郎」といった呼称が用いられていることの理由を考える。
    「太郎」「次郎」が男の子の一般的呼称で、そのまま「三郎、四郎」と続くことをすぐ気付くことができるだろう。そこから固有の呼称でありながらも、ここでは子供全般を含む、ということを理解させたい。
  2. 「眠らせ」という語句に注目し、その主語を考える。→「深い学びのために」参照
    使役の用法について気付かせる狙いもあるが、「太郎(次郎)」を眠らせるものが「雪」であることを理解させ、「太郎(次郎)」と「雪」という関係に着目させたい。
  3. リフレインに注目し、それらがこの詩でどのような効果を持っているのかを考える。
    これらの表現によって、空間的に、また時間的に、無限の広がりをイメージさせる効果があることに気付かせたい。また、①で触れた「太郎」「次郎」という呼称や、末尾の「ふりつむ。」によって喚起される雪のしんしんと降る情景、「ふりつみ」ではなく「ふりつむ」と一行ごとに場面を終わらせることで、その効果が強められている点を理解させたい。
  4. 「太郎(次郎)」の気持ちや感覚を推測する。
    「太郎(次郎)の屋根」という表現から、雪に包まれるように屋根の下で暖かく眠る子供たちの安心感に気付かせたい。そして③で触れたような、空間的時間的な無限性の中にあることを重ねて押さえさせたい。
  5. 語り手(詩人)がどこからこの情景を眺めているのかを、イメージする。
    あくまでも文学作品であるので、ここでの情景を実景ととることや、作者の個人的な経験に帰するのは戒めなければならないだろう。しかし、ここでの情景を眺めている主体を想定し、それを問いかけることは必要であろう。おそらく生徒の多くは、上から鳥瞰的に眺めている感じがすると述べるであろう。次項の「発展」に繋げるため、ここでは、語り手(詩人)、つまり眺める主体の位置をしっかりとイメージさせておきたい。
  1. 詩人を理解させて、詩の内容理解に繋げる。
  1. このような情景と向き合っている語り手(詩人)の心情を推測する。思判表
    雪がしんしんと降る中、多くの子供たちが安心して眠っていることに思いを馳せている語り手(詩人)の心情を考えさせたい。想定される答えは、子供時代を懐かしく回想しているといった理解、またそのような安心感がかつて得られなかったのでそれを求めているという理解に基づくものだろう。いずれにしても、この詩編に描かれたような世界に対する喪失感が一方にあったことを指摘しておきたい。
まとめと発展
  1. 三好達治について伝記的・文学史的観点からも理解する。知技
    伝記的な事実にも留意させる。達治の生い立ちが決して、肉親からの愛情に満ちたものでなく、それが詩集「測量船」にも反映していることなどを説明し、詩編「雪」に対する理解をさらに深めたい。ただし、詩の語り手をそのまま達治に帰するのではなく、あくまでも一旦切り離した上で、この詩を作ったモチーフ・動機といった切り口から解説する。
  2. ほかの収録作品と読み比べ、表現の特徴についてまとめさせる。→「単元の言語活動」参照 主態
    高村光太郎や中原中也の詩との技法上の相違などについて考えさせることで、詩の多様性を印象づけておきたい。
  3. 「太郎」→「次郎」の言い換えに注目する。
    リフレインの効果や末尾の音韻、そして「太郎」「次郎」という呼称について、理解度を確認したい。鑑賞文も評価する。
  4. 二行に凝縮された表現の効果を知る。
    ほんの二行にしかすぎない詩編の喚起するイメージが広大で奥行きのある世界であることを、十分理解できたかどうかを問いたい。
汚れつちまつた悲しみに中原中也
導入
  1. 詩を朗読し、リフレインやリズムの特徴を感受させる。
  2. 特徴的な表現技法を明らかにする。
  3. 主題をとらえる。
  1. リフレインやリズムの微妙な変化に気を付けて音読する。
    この詩の基調にある音数律について触れる。特に「汚れちまった」ではなく「汚れつちまつた」と促音の「つ」が付いていることに注意させる。
  2. 全体の流れの基調にある感情をとらえる。
    汚れと悲しみのつながりに注目させる。
展開
  1. 「汚れつちまつた悲しみに・・・・・・」ではどのように詩句が反復しているかを確認する。
    第一連と第四連に、第二連と第三連が挟まれた構成であることを確認させる。
  2. 「汚れつちまつた悲しみに」と「汚れちまつた悲しみに」の違いを考える。
    「汚れちまつた」に促音の「つ」が加わり「汚れつちまつた」となることで、リズムが変化し、印象が一変することに気づかせる。
  3. 「汚れつちまつた悲しみ」の意味するものを考える。
    比喩、擬人法などの表現を確かめる。
    白と汚れの関連でとらえさせる。
  4. 菅谷規矩雄「詩的リズムー音数律に関するノート」により、詩がもつリズムの働きについて話し合う。主態
    「汚れつちまつた悲しみは/たとへば狐の革裘」「倦怠のうちに死を夢む」の表現に注意させる。
まとめと発展
  1. 詩を暗唱し、感想を記す。
  2. 詩に韻律とリズムについての自覚を深める。
  1. 「汚れつちまつた悲しみに……」の表現の特徴を踏まえた感想を記す。思判表
    朗読の仕方を工夫し、暗唱を心掛ける。
  2. 中也のほかの詩のいくつかについて、音数律を確認してみる。知技
    七音・五音を基調とした詩や、その音数律から外れた詩をいくつか挙げ、気づいた点をまとめさせる。
崖石垣りん
導入
  1. 黙読や朗読をさせ、詩の概要を把握させる。
  2. 作者の来歴と、作者が生きた時代の戦争について理解させる。
  1. 黙読や朗読を通して詩の内容を理解する。気になる箇所を心に留め、授業の展開に備える。
    この詩は、同じ単元の他の収録詩篇と比べて、流れるようなリズムを誇る詩ではなく、唐突な改行や鍵括弧など、書き言葉の効果に主たる特徴がある。黙読でもよいので内容を吟味させ、女性達に悲劇的な死を強制した戦争と、それを鋭く告発するこの作品の鬼気迫る迫力を感じ取らせたい。。
  2. 作者の来歴と、作者が生きた時代の戦争について理解する。
    本作は歴史的事実に取材した詩であるので、背景についての正確な理解は欠かせない。当時の戦況も含めて地図なども活用しつつ説明すると分かりやすい。ただし、作者の石垣が戦中派世代の女性であるゆえに、当時の女性の運命にことさら思い入れがあるという説明に傾きすぎると、現在の学修者の共感を引き出しにくくなる。詩の読解にあたって、性別や経験にとらわれる必要がないことも十分に伝えておきたい。
展開
  1. 第一連で描かれている歴史的事実について確認させる。
  2. 第二連の内容について、当時の日本人女性を縛っていた道徳や規範について確認させる。並列助詞の機能などにも注目させる。
  3. 第三連「ゆき場のないゆき場所」の意味、また鉤括弧の効果について解釈させる。
  4. 第四連の内容について、このような末尾になっていることの意味を解釈させる。特に、「あの、/女。」という改行の効果について考えさせる。
  1. 教員が提供する資料や事前学修の指示に従い、第一連で描かれている歴史的事実について確認する。知技
    本作は、サイパン島玉砕の悲劇のなかでも、女性の犠牲に焦点をあてることによって、歴史的に犠牲者となりやすかった女性全般の位置を問い直す広い視野を開いている。それゆえに傑作となってもいるが、サイパン島玉砕という歴史的事実それ自体に関しては、当然ながら、犠牲となったのは日本人女性だけではない。第二次大戦末期の戦況や、先住の島民たちの生活状況などを含め、歴史に踏み込む以上は、できるだけ多角的な学修の機会に繋げたい。
  2. 第二連にも、当時の社会規範についての言及があるため、引き続き歴史的事実について確認する。また、「やら」や「だの」といった並列助詞が何を意味するかに注目する。
    第二連には「美徳」「義理」「体裁」といった言葉が出て来るが、女性たちがなぜそれらを守るために命まで捨てねばならないのかを理解するためには、歴史的知識が必要なため、しっかり確認させたい。生きて捕虜となることを禁じる「戦陣訓」は、女性にとってはとりわけ戦時性暴力を受けることを恥と考える規範に直結しており、一般に性暴力の被害者として想定されていたのは男性ではなく女性であった。本作には、追いつめられる「女」と追いつめる「男」を対置する表現があるため、表層的に読んでしまうと、男性のみが戦争の主体であるという一方的な観点と見なされかねない。現代の学修者が性やジェンダーの規範が相対化された時代に生きているからこそ、当時の女性が置かれた状況を丁寧に説明する必要があろう。
  3. 第三連「ゆき場のないゆき場所」の意味、また鉤括弧の効果について考える。思判表
    第三連は、それまでサイパン島玉砕について語られていた内容が、一挙に女性全般をめぐる状況に拡張される大事な連である。鉤括弧で挿入される一行がその重要な役割を果たすことに注意させたい。発問例、語句の解説を参照。
  4. 第四連の内容について、このような末尾になっていることの意味、特に「あの、/女。」という改行の効果について考える。
    第四連には「もう十五年もたつというのに」という言葉があり、本作はサイパン島玉砕から十五年後の時点で書かれている。長い年月が経ったはずなのに、まだ出来事が終わっていない、問題が解決していないことを強く印象づける末尾であることに気づかせたい。この「十五年」には、サイパン島玉砕の一九四四年から、学修者がこの詩を読むまでの年月をあてはめてもよいはずである。また、「女」でなくとも、暴力的な状況のなかで犠牲になる存在を想像しつつ読むことも出来るはずである。
まとめと発展
  1. [展開]4との関わりから、「深い学びのために」の「学習のポイント」に取り組ませる。
  1. 第四連で、「女」が「まだ一人も海にとどかない」と言われていることの意味を、作者の生きた時代や作品の背景を参考にして考え、話し合う。主態
    本作は、女性を崖の下へと追いやるような状況が今もまだ続いているのではないか、と鋭く問いかける形で締めくくられている。学修者は、女性をめぐる現行の社会的状況をどのように認識しているだろうか。本作の読解は、性やジェンダーに関する学修者自身の認識にも関わってくる。
    戦争をどう考えるか、女性の立場をどう考えるか、という思想面での探求と、詩としての技法や効果をめぐる表現論的な理解とを同時に導くことによって、本作は、審美的なだけではない詩的言語の力に開眼するきっかけともなるだろう。

鞄安倍公房

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 作者について触れる。
  2. 作品全体の構成、内容をつかませる。
  1. 安部公房とその作品について知るところを確かめる。
    教科書の作者紹介、あるいは便覧等を利用して簡単に触れる。
  2. 全体を通読させて、第一次の感想をメモする。語句の読み、意味を確かめる。知技
    語句の意味調べは前時に課題としておく。朗読の場合は「構成」2に従ったほうがやりやすいであろう。
  3. 全体の構成を考えて、段落分けをし、各段のあらすじまとめさせる。
    学習のポイント1
    「構成」1に従い、四段に分けるよう指示する。あらすじは時間がなければ課題としてもよい。
  4. 登場人物、小説内時間、場所等基本的な設定について確認をさせる。
    学習のポイント2
    人物像などは、この段階ではあまり詳細にまとめさせる必要はない。まとめの段階で「学習のポイント2」を使って確認させてもよい。
展開
  1. 第一段落の内容について理解させる。
  2. 青年の人物像について理解させる。
  3. 第二段落の内容について理解させる。
  4. 鞄のイメージを把握させる。
〈第一段〉(初め~五二・6)
  1. 青年の人物像について確認する。
    青年が〈雨の中をぬれてき〉たわけではないことを確認させたい。
  2. 新聞の求人広告がどのような性質のものか理解させる。
    あらかじめ課題として調べさせておいてもよい。その上で青年の申し出がいかに非常識かを理解させる。
  3. 「私」が青年を引き留めた理由について考える。
〈第二段〉(五二・7~五五・6)
  1. 青年の話し方の特徴について考える。
    〈はぐらかされた〉〈つい〉などの表現に着目させる。また、通常の求人広告に応募した場合と比較させる。
  2. 鞄がどのようなものかまとめる。
    具体的な形状や印象などをまとめる。
  1. 第二段落の内容について理解させる。
  2. 「私」が変化していく様子を理解させる。
  1. 青年の口上の内容を把握する。
    青年の口上を聞いたときの「私」の心情も確認しておく。
  2. 青年と私の会話のずれについて理解する。
    〈手放す〉〈手から離す〉等の表現に注意する。
  3. 青年が鞄を持つ意味について確認する。
    本文の表現をまとめさせる。
  4. 「私」の変化について理解する。
    「私」が投げ掛けている質問に着目させる。
  5. 青年が〈小さく笑った〉ことの意味を考える。
    鞄の中身に関する会話に注意する。
  1. 第三段落の内容について理解させる。
  2. 〈道〉という言葉の意味について考える。
  3. 「私」の変化について考える。
〈第三段〉(五五・7~五六・5)
  1. 青年を採用した理由について理解する。
    条件を出したのはなぜかということも考えさせる。
  2. 〈道〉がどのような意味で使われているか考える。
    学習のポイント4
    〈道〉についてそれまでに述べられているところも振り返らせる。
〈第四段〉(五六・6~終わり)
  1. 「私」の行動が大きく変化する時点を確認する。
    〈また歩け始めた〉などの表現に着目する。
  2. 〈道〉がどのような意味で使われているか総合的に考える。
    学習のポイント4
    第三段落で考察した〈道〉と合わせて考える。
  3. 最後の二つの文の意味について考える。
    学習のポイント5
    この段階では、第四段落の読みを中心として引き出される解答でよい。
まとめと発展
  1. 〈鞄〉が何を象徴するか考えさせる。
  2. 現代の問題として考えさせる。
  3. 作家についてまとめ、読書への展開をはかる。
  1. 〈鞄〉が何を象徴しているかについて考えさせる。
    話し合いの形で進めて発表させる。〈鞄〉から連想されることを単純に挙げさせることから話し合いを初めてもよい。
  2. ①を踏まえた上で、再度最後の一文の意味について考えたこと、感じたことを文章にまとめさせる。思判表
    議論を踏まえ、身近な例を挙げるよう指示する。
  3. ①を踏まえた上で、再度最後の一文の意味について考えたこと、感じたことを文章にまとめさせる。
    「言葉と表現1・2」について調べさせる。
    課題とする。
  4. 作者安部公房について調べさせ、読書指導をする。主態
    具体的な作品を挙げて、読書指導をする。

押絵と旅する男江戸川乱歩

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 学習者自身の読みを言語化させ、疑問や関心を意識させる。
  2. 作品の基本的な枠組みを理解させる。
  1. 本文を一読し、自分なりに考えたことをまとめる。
    まずは作家の情報など事前知識を与えず、学習者がテクストそのものと向き合いながら自身の読みを確立させ、それを他者と共有できるかたちで文章化させる。お互いの感想文を読み、他者の考えを知る機会を設けてもよいだろう。
  2. 物語内容と物語構造を読み取り、作品の概要を理解する。思判表
    登場人物・時制・場所(物語内容)を読み取り、物語の基本的な展開を理解させる。登場人物については作中、人物の関係性によって呼称が変化する点に留意し、統一するとよいだろう。ここでは「私」・「男」(弟)・「老人」(兄)と表記している。また、一人称語り・回想形式・入れ子型(物語構造)をおさえ、それぞれの表現上の効果も理解させたい。
  3. 作品の発表された時代や作中で描かれている時代背景を理解する。知技
    関連資料や動画像を参照しながら、明治期と大正期の文化風俗を、概略的かつ具体的にイメージさせ、作品を取り巻く同時代的なコンテクストへの理解を促したい。
展開
  1. 語り手の役割や効果について考えさせる。
  2. 蜃気楼・双眼鏡・覗きからくりの機能を読み取らせ、その共通性について考えさせる。
  3. この世界/別の世界という対立構造について考えさせる。
〈第一段〉(初め~七〇・下21)
  1. 「私」がどのような語り手か読み取る。
    「私」の素性は明らかでないが、「私がこの話をすると、時々、お前は魚津なんかへ行ったことはないじゃないかと、親しい友達に突っ込まれることがある。そう言われてみると、私はいつの何日に魚津へ行ったのだと、ハッキリ証拠を示すことができぬ」(六九・上11~六九・下3)を踏まえれば、信頼できない語り手だといえる。通常、語り手の語る内容は信頼に足ることを前提に読者は読み進めるが、それを逆手にとっている作品では、語りが物語や読者の読みにどう影響しているか考えさせたい。また、「今になって考えてみると」(七二・下10)などからは「今」の時点より過去の出来事を客観的に捉えようとする「私」の態度が読み取れ、「読む人」(七六・上13)という語句に着目すれば、「親しい友達」に「この話」をしてもまともに相手にされなかった「私」が、誰に向かいどのような動機で「この話」を綴っているのか考えさせるのもよいだろう。
  2. 蜃気楼がどのようなものとして描かれているか読み取る。
    物体/虚像の距離感に触れ、比喩を駆使しながら自然現象の物理的なメカニズムを示し、蜃気楼を「魔力」(七〇・下14)と表現している点をおさえる。その「魔力」は「男」の話に耳を傾けるあいだ「私」の認識や判断に作用するだけでなく、この世界/別の世界という対立構造にも通底し、物語を構成する重要な要素の一つであることを理解させる。
〈第二段〉(七一・上1~七八・上10)
  1. 「男」の人物像や印象を読み取る。
    「私」が「西洋の魔術師のような風采の男」(七二・下12~13)を「いとわしく、恐ろしければこそ」(七二・下18)に思っている点をおさえ、第三段で確認する語り手としての「男」をめぐる問題につなげたい。
  2. 双眼鏡を覗く前後で、押絵(娘と「老人」)に対する認識はどのように変化したか読み取る。
    「私」は押絵に「奇妙なもの」(七三・下10)を感じ取っており、それは「押絵の人物が二つとも、生きていたこと」(七四・下17~18)と語る。しかし、あくまで名人の操作で人形が生きているかのように見える錯覚に喩えられている。この点に留意しつつ、その肉眼による錯覚が、双眼鏡を介在させることで実際に「一人の生きた娘として、蠢き始めた」(七六・下3~4)ように、微妙な質的変化が生じていることを理解させる。
  3. 蜃気楼と双眼鏡の共通性を読み取る。
    蜃気楼における「大気の変形レンズ」(七〇・上18)と双眼鏡におけるレンズの類似性をおさえる。さらに、双眼鏡による認識の変化について、「蜑」(七六・上15)の例が用いられている点に着目したい。そのなかの「青い水の層の複雑な動揺」(七六・上16~17)は水面における光の屈折を指し、蜃気楼の物理的なメカニズムと関連づければ、視覚の拡張・認識の変化というレンズの働きへの理解が深められるだろう。
〈第三段〉(七八・上11~八八・上15)
  1. 「男」がどのような語り手か読み取る。
    「妙なことに、小姓の吉三の代わりに洋服姿の兄が座っているのを、のぞき屋は少しも気がつかない様子でした」(八七・上6~8)・「父も母も、何を言うのだ。お前は気でも違ったのじゃないかと申して、何と言っても取り上げてくれません」(八七・上9~11)などから、「私」同様、「男」も信頼できない語り手だといえる。本作品は、「私」という信頼できない語り手の話のなかで、「男」という別の信頼できない語り手の話が展開するという入れ子型構造を成しており、そのような重層的な(信頼できない)語りが孕む効果(パラドックスなど)について考えさせてもよいだろう。
  2. 双眼鏡と覗きからくりがどのようなものとして描かれているか読み取る。
    「老人」は「眼鏡の中の美しい娘」(八三・上4)に惹きつけられ、「のぞきの眼鏡」(八四・下4)越しに娘を発見しているので、絵の世界へ足を踏み入れる前に肉眼でまなざすことはない。また、もともと顕微鏡などの働きを「お化けじみた作用」(八六・上2)だとして気味悪がっていた「男」が、双眼鏡を逆さにして覗くと「老人」が小さくなってしまった現象も併せ、「魔性の器械」(八六・上4)と語っている。「老人」と「男」が、実体と異なる像の現前で尋常ではない衝撃を受けていることを理解させる。
  3. 蜃気楼・双眼鏡・覗きからくりの共通性を読み取る。
    「老人」が双眼鏡・覗きからくりを介して押絵の娘に魅了され、「男」が双眼鏡などを「魔性の器械」に喩えている点は、「私」が双眼鏡を以て押絵の娘の実在性を感受し、「蜃気楼の魔力」(七〇・下14)を語っている点と対応する。「私」「男」「老人」は、レンズ(蜃気楼・双眼鏡・覗きからくり)のもたらす視覚の拡張によって、世界や物事に対する認識に変化が生じ、恐怖や魅力を感じていることを理解させる。
〈第四段〉(八八・上16~終わり)
  1. この世界/別の世界の対立構造について考える。
    「これは私が、不可思議な大気のレンズ仕掛けを通して、一刹那、この世の視野の外にある、別の世界の一隅を、ふと隙見したのであったかもしれない」(六九・上5~8)という一文が本作品の基調を成している。「この話」自体が別の世界の一端であり、作品のモチーフであるレンズの働きと重ねれば、この世界=物体/別の世界=虚像と捉えられる。留意したいのは、虚像は幻覚や錯覚ではなく光の屈折で可視化されたもので、顕微鏡や虫眼鏡で拡大された像を見て幻だと思うことはまずないだろう。実在しているものの光の屈折で見え方が変化し、見えている像そのものと合致する物体は存在しないが、この世界/別の世界を単純に現実/幻に置き換えるのではなく、視覚による認識の根源的な問題として考えを深めさせたい。
まとめと発展
  1. 作品のモチーフ(レンズ)を視座に、物語内容や物語構造を読み解く方法を理解させる。
  2. 言語活動への接続を図る。
  1. 本作品におけるレンズの役割や象徴性について考え、まとめる。
    段落ごとに行った精読の内容を踏まえ、レンズと本作品の関係性について考えたことを文章化させる。作品の分析方法はさまざまあるが、いずれにせよ論点(どのような観点から何を考察し何を明らかにするのか)を明確に定め、本文を拠りどころとしながら読みを組み立てる思考力の涵養に努めたい。
  2. 「この話」が「夢」「映画」に喩えられていることの象徴性について考える。
    「展開」で行った解釈をさらに深めるために、物語冒頭の「夢」(六九・上3)・「濃厚な色彩を持った夢」(六九・下4~5)・「着色映画の夢」(六九・下9)という連想的な比喩に着目してもよいだろう。作中に登場する顕微鏡や双眼鏡、そして映画(撮影機・投影機)を総称すれば光学器械であり、蜃気楼の様子が映画に喩えられていることからも、映画は本作品のモチーフと関わっている。そこに夢と映画の親和性やモノクロのサイレント映画が主流であった時代背景を加え、本作品の幻想性・怪奇性とはどのようなものか考えさせたい。
  3. 言語活動12に取り組む。主態
    この指導計画案ではレンズを視座に本作品を読み解いているが、「浅草の十二階」(七八・上16)や「八百屋お七」(八四・下15)などのキーワードにも着目し、さまざまな角度から解釈を試みてもらいたい。また、口頭発表を行い自身の考えを伝える力や他者の考えを受けとめる力を養ったり、自身の解釈をまとめたものを読み合い批評する力や文章を推敲する力を鍛えてもよいだろう。

マンガは哲学する永井均

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 「哲学」の考え方について関心を向けさせる。
  1. 「哲学」という営みに対して各々が持っているイメージを確かめる。
    「哲学」的な問いとして、たとえばどのようなものが思い浮かぶか、発問によって相互に共有させる。
  2. 指名により音読し、難解な語句や分からない語句をチェックする。知技
    抽象的な語句や表現に立ち止まり、それがどのような意味を持つ単語なのかを辞書を引きながら調べさせる。
展開
  1. 筆者の「哲学」観について、文脈を追いつつ的確に把握させる。
  2. 「赤い壁」が具体的な作品分析の事例としてなぜ効果的なのかを考えさせる。
  3. 第一段落・第二段落の内容をまとめさせる。
〈第一段〉(初め~九一・15)
  1. 「筆者が「哲学」をどのようなものと位置づけているのか、簡単にまとめる。
    個別具体的な問いの事例ではなく、一般的な次元で筆者が「哲学」の方法意識をどのように捉えているかを考えさせるとよい。
  2. 筆者が「マンガ」の魅力をどのようなものだと考えているのか、簡単にまとめる。
    いわゆる大人が読む高尚な小説作品とは異なる「マンガ」の訴求力について、筆者が「哲学」と関連づけながら説明していることの意味を理解させる。
〈第二段〉(九一・16~九三・16)
  1. 「赤い壁」の設定が持っている哲学的な装いを考える。
    「赤い壁」の設定は、認識論的な意味での現実と、存在論的な意味での現実の乖離や不協和を示唆するものであり、そういった世界理解の多面的なあり方を理解させる。
  2. 夢と現実の関係を、筆者がどのようなものと考えているのか、簡潔にまとめる。思判表
    先述した現実の多面性をめぐる論点に関わるかたちで、「赤い壁」において、夢を創造している自分自身の寝顔について、まさにその夢の中で対象化して見てしまうことのユーモアを確認させる。
  1. 筆者が考えるリアリティの成立条件とは何かを理解させる。
  2. 第四段落における討議の蓄積を的確に把握させる。
  3. 第三段落・第四段落の内容をまとめさせる。
〈第三段〉(九一・17~九五・8)
  1. 夢を通じて他者の現実に入り込むという「赤い壁」の世界理解の奥深さを確認する。
    「赤い壁」の設定は、多少とも複雑な要素を備えたものであるため、まずはその筋立てを的確に跡づけさせる。
  2. 各々の夢が現実の基盤を成していることの意味を理解する。
    筆者の言う夢と現実の関係が、一般論として共有されている夢と現実の関係と、どのような点で異なるのかを理解させる。
〈第四段〉(九五・10~終わり)
  1. 映像や夢や幻想といった概念の成立可能性をめぐる討議を確認する。
    現実の存立構造について、様々な討議が累積的に深まっていく論理展開の魅力を捉えさせる。
  2. 「哲学」による思考の運動が深淵を作り出してしまうことの意味を理解する。
    本文冒頭を再読しつつ、改めて筆者の「哲学」観の要諦がどのような点にあるのかを理解させる。
まとめと発展
  1. 「マンガ」と「哲学」の関係を重視する筆者の姿勢を理解させる。
  2. 各自の「哲学」観について話し合わせる。
  1. 「マンガ」と「哲学」の関係について、各自が考えたことをまとめる。主態
    本文全体の内容を踏まえて、「マンガ」と「哲学」について各自が抱いていたイメージとの懸隔を確かめさせる。
  2. 自分が思う哲学的な問いを誘う「マンガ」を相互に紹介する。
    ある「マンガ」を単に鑑賞するのではなく、そこから何らかの思想的意義を引き出すことの面白さに注意を向けさせる。

こころ夏目漱石

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 作者について必要な知識を持たせる。
  2. 作品について、作品全編の構成と教科書本文までのあらすじを頭に入れさせる。
  1. 学習に必要な範囲で、作者について予備知識を得る。知技
    夏目漱石について、近代社会に対する鋭い批評意識を持った明治を代表する作家であり知識人であることを概説する。「吾輩は猫である」や「坊つちやん」などを知っているものは多いであろうが、「こころ」との関係を見るために、前期・後期の三部作を中心に整理させたい。
  2. 「こころ」全編の構成と教科書本文に至るまでのあらすじを概括的につかむ。
    本文の前に置かれた概要を読み、構成とあらすじをつかませる。特に上と中の語り手が別人である点、上・中で「先生」と呼ばれる人物が遺書の中で自己の過去を「私」として語っている点に注意させる。
  3. 「私」の過去の経過について整理する。
    叔父の裏切りによる人間不信、下宿先の心遣いによる人間らしさの回復、友人Kへの助力、Kとお嬢さんの関係への疑いという基本的な流れをつかませる。特に以後の展開を見るうえで、Kと私の関係をきちんとつかんでおきたい。
  4. 場面を追って読み進める。
    教科書に採録された部分はミステリー小説のような構成を持つ部分でもあり、導入の段階で最初から構成と展開をつかんで大きく段落分けをするよりも、少しずつ場面を追いながら進めていき、まとめの作業として段落構成を振り返って捉えるほうが生徒の興味関心を引き出しやすいだろう。
展開
  1. 登場人物の性格をつかませる。
  2. 登場人物の現状から、その言動の意味をさぐる。
〈第一段〉(一〇四・上14~一一〇・上14)
  1. Kの相談に応じる場面で、「私」が何を確かめたかをつかむ。
    「実際的の方面」(一〇五・下4)という言葉から改めて「私」の不安の原因をはっきりとさせる。次に、「進んでいいか退いていいか」(一〇六・上8)の意味するものを明らかにして、平生と異なるKの姿からKの心中を確かめさせる。さらに、「公平な批評」(一〇六・上6)を求めるKの「私」の友情への信頼と、それと裏腹の「私」の心への鈍感さを指摘しておきたい。ひるがえって、「私」の「そのときの私は違っていました。」(一〇六・上17)という言葉から、「私」のどうしても譲れない、お嬢さんへの思いを読み取らせる
  2. Kの虚につけ込む場面で、「私」が放った言葉の意図と効果についてまとめる。(→学習のポイント②)思判表
    Kの理想と現実の内容をはっきりさせる。ともすると恋の実現が理想で、それを迷っているのが現実だと解してしまう部分なので、平生のKが主張する信条(一〇七・下段)を確認することで、恋はKの理想にとって妨げにしかならないはずのものであることをはっきり押さえさせる。そこから、「せっかく積み上げた過去」(一〇八・上7)に沿って、私が「精神的に向上心のない者はばかだ」(一〇七・上12)と言った策略の意図がまとめられよう。
  3. Kの反応とそれに対する「私」の心の動きを確認する。
    Kの「僕はばかだ。」(一〇八・上16)という言葉に対して、「居直り強盗のごとく感ぜられた」(一〇八・上19)という「私」の疑心暗鬼から、依然として「私」の心の底にあるKへの恐れを確かめさせる。
  4. 「私」とKがそれぞれ使う「覚悟」の内容を、「覚悟」を迫る場面での「私」の心理と受け止めるKの心理に即してまとめる。
    Kの「その話はやめよう。」(一〇九・上4)が「私」の言葉の中で「それをやめる」(一〇九・上13)と恋そのものをやめる意味に転換されて、そのまま「覚悟」(一〇九・上13)に続く点に注意させる。一方、Kの言う「覚悟」(一〇九・下5)・「ないこともない。」(一〇九・下7)という微妙な言い回しや、「独り言」「夢の中の言葉」(一〇九・下8)という調子を手がかりにして、「私」の言う「覚悟」と意味するところが違っていることに気づかせる。「学習のポイント④」と無縁な箇所ではないので、ここで無理に自分を裁く意味すら含んだ「覚悟」であることに言及する必要はない。ただし、後に「学習のポイント④」に取り組む際振り返るためにも、初読時に考えた「覚悟」が指す内容は記録させておく。
  1. 登場人物の心の動きを追い、その言動との関連を明らかにさせる。
〈第二段〉(一一〇・上16~一一五・下9)
  1. Kに疑いを持つ場面での「私」の焦りの原因を明確にする。
    「一般」と「例外」(一一二・下5)の意味するものを、平生のKへの「私」の見方から確かめ、「新しい光」(一一二・下15)が「私」のKへの疑心暗鬼からの見方であることを、前の場面の「居直り強盗」(一〇八・上19)との関連でつかませる。さらに、遺書を書く現在時においてはそれも誤りではないかと考えていることを、「もういっぺん彼の口にした覚悟の内容を公平に見回したらば」(一一二・下15)という仮定の言い方から確認させておきたい。
  2. 結婚を申し込む場面での、「私」の決断と実行に至る心理を読み取る。
    結婚の承諾のあっけなさは、客観的に見れば、明治の時代背景においては、「私」の学歴や経済状態からしても当然のものであっただろう。それに対して、ただの居候でしかないKが奥さんの承諾を得てお嬢さんを得る可能性は「私」より低かったであったろう。それにすら気づかないほど「私」がKの強さを恐れていたということになる。「私」の空回りぶりを強調するために、「解説」の「「私」とKの力関係」の項目の内容を理解させるのもよい。
  3. 奥さんの反応をまとめる。
    奥さんの人柄と立場から許諾の事情を考えさせる。経済的事情やお互いの身の上に鑑みても決して悪い話ではない点、娘の意向の把握などについて確認させておきたい。
  4. ②・③をふまえて「現代と異なる点」という切り口から、「言語活動①」のレポートテーマ選択や班決めを行う。
    まとめとして行う予定の「言語活動①」の作業説明を受けさせた上で、自身のテーマ決め(ないし班のテーマ決め)を行わせる。宿題として行っても良い。
  1. 登場人物の心の動きを、意識の志向と現実の人間関係との相関で捉えさせる。
〈第三段〉(一一五・下11~終わり)
  1. 「言語活動①」で予定している班活動の練習として、「言語活動②」の東京散歩案内を実施する。知技
    「言語活動①」を見据えた練習として、発表内容自体は問わずに実施する。Googleや旅行ガイドなども活用し、自由に班活動に取り組ませる。
  2. 良心の復活の場面での謝罪の衝動が阻まれた理由をまとめる。
    良心の命令が「私の自然」(一一六・下5)という言葉に置き換えられている点に注意させる。自然に現れた良心が「奥には人がいます」(一一六・下5)という些事で食い止められてしまうことと、例えば羅生門などで学んだエゴイズムという言葉に対する感覚との共通点・相違点について考えさせる。エゴイズムという言葉についての考えを深めさせる。
  3. 婚約後の場面で、「私」の陥った窮境の内容をつかむ。
    「倫理的に弱点を持っている」(一一七・下10)ということの内容を確認させ、「正直な道を歩くつもりで、つい足を滑らした」(一一八・上9)という「私」自身への批評の意味を読み取らせる。Kに自分を説明できない「卑怯な私」(一一七・上11)、また、未来の信用を思う「真面目な私」(一一八・上4)という言葉から、「真面目」ゆえに「卑怯」であるあり方としてまとめさせる。そこから「私」の陥った窮境の内容をつかませることができよう。
  4. Kに自分の婚約が告げられたことを知った場面での「私」の思いをつかむ。(→学習のポイント③)
    まず、「私」は婚約をKが知ったらどんな反応を見せると考えていたのかを問い、それによって、Kの「超然とした態度」(一一九・上7)から「策略で勝っても人間としては負けた」(一一九・上9)と感じた「私」の思いの意味をはっきりさせる。このプロセスを生徒に主体的に辿らせるような仕掛けを用意することで、「学習のポイント③」に積極的に取り組ませたい。次に、それでもなお「進もうかよそうか」(一一九・上15)と謝罪をためらう「私」の心理を考えさせる。
  5. Kの自殺を知った場面での「私」の心理と行動をまとめる。
    Kの死によって取り返しがつかないという思いをする中で、なお「私を忘れることができませんでした」(一二〇・上9)という、世間体にこだわる「私」の振る舞いをつかませる。
まとめと発展
  1. 全体のまとめをして、主題について考えさせる。
  2. 作家と作品についてまとめさせる。
  3. 言語活動に取り組ませる。
  1. 「学習のポイント①」に沿いながら全体を振り返って、構成をまとめる。思判表
    大きく段落に分けさせながら、「私」が常にKを恐れ、意識し続けていることに気づかせる。同時にこれらのまとめが全て「私」からの視点で書かれていることにも気づかせることで、次の「学習のポイント④」(Kの視点)や「言語活動③」(学生の「私」の視点を通した生徒自身の視点)で学ぶ、他者の視点を意識させたい。
  2. 「学習のポイント④」に沿いながら、Kの自殺の動機を考える。思判表
    Kの性格や主張、また遺書の記述から総合して考えさせる。断定的な結論は出せない問題であることを念頭に班活動で話し合わせ、なるべく多くの意見交流をさせる。
  3. 「言語活動①」に取り組み、『こころ』の背景を学ぶ。主態
    班での発表やクラス規模での成果物作成、クラス対抗発表会も視野に入れ、多くの視点から明治時代、ひいては『こころ』を見直させることで、各人が抱える「なぜこの登場人物はこのようなことを」「なぜこの作品はこんなような」という疑問を自分で解決させるようにしたい。
  4. Kや「私」の人物像を踏まえながら「言語活動③」に取り組むことで、作品の主題を探る。主態
    これまでの学習を振り返りながら、「先生」に向けて、つまり「遺書を受け取った学生の「私」の視点で書いてみる」ことを意識させる。結局これは生徒が学生の「私」を仮構して書く作業ではあるが、逆にそれだからこそ遺書を生徒が直接受け取ったという仮定の下で様々に考えさせることのできる作業である。その作業は、ひいては『こころ』全体を眺め直して主題を考えることと結びつくはずである。
  5. 作者と作品について、関連事項を整理する。
    教科書本文の範囲では、我執(エゴイズム)と倫理意識との葛藤というのが一般的な見方だが、人間の関係における心情の避け難い齟齬もあるという面を確認させる。また同時に、例えば小宮豊隆による同時代評を紹介するなどして、『こころ』は発表当時から謎の多いとされる小説だったと理解させることで、教科書採録部以外の部分にも興味関心をむけさせるようにしたい。

夏目漱石・芥川龍之介往復書簡夏目漱石・芥川龍之介

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 書簡というものの特徴とそこで使う言葉について考えさせる。
  2. 師弟という関係について考えさせる。
  3. 漱石・芥川書簡の内容を大まかに捉えさせる。
  1. 書簡という宛先の人が現前しないメディアの特徴とは何か、そこで使われる言葉は、他とどう違うかを考える。知技
    書簡というメディアについてまずは考えさせることで、その後の学習活動に関連付けやすい状態を作る。学習者の状況に応じて、ここでの考えを積極的に学習活動に組み入れたい。教室にて意見を出させてもよいし、オン・オフライン問わずメモとして提出させてもよい。
  2. 師弟という関係について自分たちが持っているイメージをあげる。
    こちらも①と同様、後々の学習活動と関連付けやすい状態を作る狙いがある。ただし、後に書簡を読む中で漱石と芥川の生きた師弟関係を読み取っていくことができるので、あくまでイメージを問う程度にとどめてよい。
  3. 芥川(久米)の略歴を確認し、漱石との関係性を理解する。
    漱石は晩年、芥川(久米)については初期の活動について注目させる。
  4. 本文全体を通読する。
    初読時に気になったこと、よくわからなかったこと、より深く考えてみたいと思ったこと等、学習者の感触を理解し、今後の授業展開に役立てたい。
展開
  1. 漱石の芥川に対する思いを考えさせる。
  2. 漱石書簡の表現上の工夫について考える。
  3. 漱石が芥川に託したものについて考えさせる。
  4. 芥川の漱石に対する思いを考えさせる。
  5. 芥川が漱石から受け取った思いについて考えさせる。
  6. 芥川書簡の表現上の工夫について考えさせる。
〈第一段〉(初め~一二四・上5)
  1. 漱石の現状を確認し、どういう思いを持っているか考える。
    文学史的な事実と関連させながら、最晩年の漱石の思いについて考えさせる。
  2. 漱石と芥川との関係を捉える。
    書き出しの一文や、人称代名詞など表現に着目し、書簡から浮かび上がる関係性について捉えさせる。
〈第二段〉(一二四・上6~一二四・下1)
  1. 漱石の芥川(久米)に対する思いを考える。
    芥川(久米)といった弟子に対する漱石の思いについて考えさせる。八月二十四日の漱石書簡とも重ねることでより考えを深めさせる。
  2. 書簡において漱石の心情がどう表現されているか考える。
    短文による語りかけや、比喩表現、人称代名詞など表現に着目し、自身の思いを漱石がどう表現しているか、その表現から芥川(久米)はどういう思いを抱くか考えさせる。また必要に応じて自筆資料を活用する。
〈第三段〉(一二四・下2~一二四・下13)
  1. 漱石が芥川に託した思いを、書簡の表現と関連させ考える。思判表
    芥川(久米)に向けられる言葉であると同時に、どこか自分自身に対するこの言葉に込められた、「新時代の作家」たちに託されている漱石の思いについて考えさせる。
  2. 芥川(久米)の心情を想像する。
    受け手の立場に寄り添いつつ、書簡を通じた思いのやり取りにつき考えさせる。
〈第四段〉(一二四・下15~一二七・上6)
  1. 自分たちの生活を芥川がどう伝えているか捉える。
    内容だけでなくそこから与えられる印象についても捉えさせる。受け手の漱石の心情について想像させてもよい。
  2. 芥川の漱石に対する思いを考える。
    師に対する芥川の思いを考えさせる。必要に応じて自筆資料や久米の書簡を扱ってもよい。
〈第五段〉(一二七・上7~終わり)
  1. 芥川が漱石から受け取った思いについて考える。思判表
    必ずしも漱石が芥川に託した思いと一致する必要はない。むしろそこの違いを契機に学習者の考えを深めさせる。
  2. 書簡において芥川の心情がどう表現されているか考える。
    芥川の心情が様々に浮かび上がる段である。表現と関連させる中で考えさせる。まとめと発展への接続として、この書簡を受けた漱石の心情に触れてもよい。
まとめと発展
  1. 自分たちの手で書簡を書かせる。
  2. 書簡における表現について考えを深める。
  1. 漱石か芥川になりかわって、自分たちであればどう書くかを考えながら書簡を書く。主態
    漱石が芥川に対して書簡を出すきっかけとなった「端書」や、八月二十八日の芥川の書簡に対する漱石の返事といったように、今回の単元を通じて学習者が扱ったものに関わる設定を与える。漱石や芥川の人間性を想像し、現前されない相手に対してどういった表現をすればよいか考えた上で、実際に書かせてみる中で、書簡に宿る面白さに触れさせる。
  2. 自分とクラスメートの書簡を確認し、表現上の工夫を考える。主態
    ①の学習活動を踏まえ、学習のまとめとしてどういった表現にどういった効果がありそうか、自分やクラスメートが書いた書簡をもとにして考えを深めさせる。
    ※①②の際には他の文学者や知識人などの書簡を実例として表現について考えさせてもよい。

山東京伝内田百閒

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 小説の特徴を理解させる。
  2. 作者について知らせる。
  3. 作品全体を把握させる。
  1. 今までに読んだ小説と比べてどういう特徴があるかあげる。
    第一印象をあげさせて、この作品の特徴を押さえさせる。夢の世界を描いた作品であることなどを紹介しつつ、荒唐無稽な舞台設定や物語の展開に着目させる。
  2. 作者の経歴等について学ぶ。知技
    簡単な経歴を説明し、代表的な作品のあらすじについて紹介する。漱石の門下生であったことや漱石の「夢十夜」の影響などについても触れておきたいが、作中の山東京伝のモデルなど、生徒に先入観を与えすぎないよう注意する。
  3. 全体を通読し、場面や状況を確認し、場面展開を理解する。
    語句の意味を確認したり、物語の舞台や設定などを押さえたりしながら場面展開を幾つかに分けさせる。捉えどころのない物語ではあるが、おおまかに三段構成と考えられるだろう。
展開
  1. 物語世界を把握させる。
  2. 「私」の置かれている状況を把握させる。
  3. 「私」と山東京伝との関係を把握し、「私」の心情を考えさせる。
  4. 表現の効果を考えさせる。
  5. 物語の展開をつかませる。
  6. 当惑した「私」の心情について考えさせる。
  7. 「わからない」という表現の効果について考えさせる。
〈第一段〉(初め~一三〇・13)
  1. 特徴的な表現をおさえながら、物語世界が夢のような世界であることをつかまえる。
    比喩や推定表現、時間や場面の推移を表す語、逆接の接続詞などの特徴的な表現を抜き出し、その効果を考えさせながら、夢のような世界が言葉によってどのように構築されているか、確認させる。
  2. 「私」の置かれている状況や、その時の「私」の心情をつかまえる。
    比喩や推定表現、時間や場面の推移を表す語、逆接の接続詞などの特徴的な表現を抜き出し、その効果を考えさせながら、夢のような世界が言葉によってどのように構築されているか、確認させる。
    「私」にかかわる表現を抜き出したり、「一人ぼっちだったようである」という表現について考えさせたりしながら、「私」の置かれている状況をつかませる。また、山東京伝の書生になった時の「私」の心情も押さえさせる。
  3. 山東京伝を前にした時の「私」の行動や心情を、山東京伝の様子を対比させ、「私」がどのように受けとめたかを考える。
    崇拝する山東京伝を前にした時の「私」の行動や心情を伺わせる表現を抜き出して理解させる。同時に、「私」と山東京伝の様子とを対比させ、「私」の心情がどのように変化したのかつかませる。
〈第二段〉(一三〇・14~一三二・5)
  1. 特徴的な表現をおさえながら、その表現がどのような効果を生み出しているか考える。
    〈第一段〉の①の活動と同様、比喩や推定表現、接続詞の用い方などを中心に、その効果について考えさせながら、何かが起こりそうな予兆やそれに伴う心情などを考えさせる。
  2. 小さい人の来訪後の山東京伝の言動を中心に、物語がどのように展開していくかつかむ。
    山東京伝の言動や心情を伺わせる箇所を抜き出して考えさせる。何が起こっているか「私」はわからないが、そうした疑問を置き去りにしたまま事態が思わぬ方向に進行していく様子などをつかませる。
〈第三段〉(一三二・6~終わり)
  1. 山東京伝から追放された時の「私」の心情を考える。
    山東京伝のところを追い出された「私」の「ごたごたした心持ち」を考えさせる。崇拝する山東京伝のところを追い出された悲しみ、「私」の言い分や謝罪を聞かず一方的に放逐したことに対する納得できない思いなど、理不尽かつ不条理な状況に置かれて当惑した「私」の感情を挙げさせる。
  2. 「わからない」という感情がこの作品においてどのように機能しているか考える。思判表
    夢のような世界の中で起こったことについて、「私」はその意味をつかめず「わからない」ままである。「わからない」ことによって生ずる不安や不気味さといった感情が、物語世界の曖昧さや不条理さを際立たせている点について確認させる。
まとめと発展
  1. 物語世界について話し合わせる。
  2. 作品の魅力や主題などについて話し合わせる。
  1. 夢のような世界がどのような表現によって生み出されているか話し合う。
    作品中で多用される比喩や推定表現、擬態語などの特徴的な表現を抜き出し、その効果について話し合わせる。不可思議で幻想的な物語世界が言葉によってどのように構築されているか確認させたい。
  2. 作品の魅力や自身が読み取った主題などをまとめる。また、他の生徒と話し合い、考えを深める。主態
    主題や作品の意味を無理に一つにまとめる必要はない。単なる感想にならないよう、これまで確認した物語の設定や展開、特徴的な表現の効果などを踏まえて、生徒各人の読みをまとめさせる。また、他の読みを共有することで、作品を多角的、多面的に捉えさせたい。

「東京語」の表象の成立イ・ヨンスク

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 東京語と「東京語」の違いを意識させながら通読させる。
  1. 題名の「」の意味を考えながら読み通す。
    生徒に本文を黙読させながら、題名の「東京語」と東京語の使い分けやその他「国語」や「標準語」など「」が付けられたことばについて筆者がどのように捉えているのかを考えさせる。
  2. 全体の展開をおおまかに把握し、段落ごとに本文を読解する。知技
    「構成」を参考にして本文全体を整理する。第四段落から第五段落で上田万年の「標準語」の議論が転回するプロセスについて、それ以前の段落における東京語についての議論を踏まえながら理解させる。
展開
  1. 本文中に登場するそれぞれの人物たちの「標準語」観を整理させる。
  2. 「標準語」と「東京語」、「国語」がそれぞれどのように関わっているのかを考えさせる。
  3. 本文全体において言文一致の問題がどのように関わるのかを考えさせる。
〈第一段〉(初め~一三四・12)
  1. 東京語について混質性が指摘される理由とそれが標準語に相応しくないとされる理由を理解する。
    三宅米吉「くにぐにのなまりことばにつきて」が引用している論者の主張から、東京語にはどのような種類があると分類されているのかを整理させ、標準語に相応しくないとされるものについてその理由を考えさせる。
    (1)「えどつこのべらんめえ」と「くにぐによりのぼりけるもの」のことばの違いを意識させる。
〈第二段〉(一三四・12~一三五・14)
  1. 山田美妙が東京語を標準語として相応しいとする論理を理解する。
    山田美妙の主張について第一段落の主張との共通点、相違点に注意しながら理解させる。
    (1)山田美妙の「東京語」、「江戸語」を第一段落の議論と比較しながら考えさせる。
〈第三段〉(一三五・16~一三七・5)
  1. 東京語が地方においてどのように広まっていったのかを理解する。
    東京語が普及したプロセスについてどのようなメディアが役立ったのかを意識させながら理解させる。
    (1)話しことばとしての東京語と、書きことばとしての東京語について、地方ではどのように受容されたのか整理させる。
    (2)『青年』において小泉純一が「東京詞」を「外国語」のように感じた理由を話し合わせる。
〈第四段〉(一三七・7~一三八・13)
  1. 上田万年の「標準語」理解と東京語評価を理解する。
    上田万年はなぜ標準語が必要と考えていたのか話し合わせる。
  2. 上田が考える標準語にはどのような条件が必要であるか、またそれに対して東京語がどのような評価をされているかを考えさせる。
    (1)上田のいう「江戸語」とはどんなものか、これまでの段落の議論と比較しながら考えさせる。
〈第五段〉(一三八・14~終わり)
  1. 上田万年の「標準語」理解が内地雑居の問題を転機にどのように変化したのかを理解する。思判表
    上田万年にとって内地雑居にはどのような問題があったのかを話し合わせる。
  2. これまでの段落での議論を踏まえ、上田万年の議論における東京語と「東京語」の違いを以下の二点に注意しながら考えさせる。
    (1)「国語」と「国民」の関係。
    (2)「標準語」と「国語」の関係。
まとめと発展
  1. 本文の議論全体を踏まえ、「東京語」を創ることの利点、欠点をそれぞれ考えさせる。
  1. 評論全体を読み直し、筆者がなぜ「東京語」が創られたと考えたのかをまとめる。
    著者紹介にある「ポストコロニアリズム」という用語について調べさせ、次の点について著者の経歴などを参照しながら考えさせる。
    (1)著者は「東京語」の創出についてどのような問題意識を持っているか。
    (2)「国民」とはどのような人々を指すか。
  2. 「東京語」が「標準語」に定められたことで地方にどのような影響があったのかを話し合わせる。主態

伝統と革新

短歌の輪郭─現代にとって短歌とは何か─
短歌十二首
俳句十二句
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
短歌の輪郭─現代にとって短歌とは何か─小池光
導入
  1. 作品全体の内容を理解させる。
  2. 筆者や引用されている歌人について理解させる。
  1. 本文の概略を理解する。
    筆者および引用されている歌人については、事前の課題として予習させる。
  2. 歌人としての筆者について理解する。
    構成に従い、二段落に分けるよう指示する。
  3. 引用された短歌の作者について理解する。知技
  4. 通読し、語句の読みと意味を確認する。
展開
  1. 引用されている短歌に従って、本歌取りについて理解させる。
  2. 引用されている短歌に従って、歌枕について理解させる。
  3. 「本歌取り」と「歌枕」の類似点を理解させる。
  4. 近代短歌における「歌枕」の意味を考えさせる。
〈第一段〉(初め~一四七・2)
  1. 「ふるさとの訛なつかし~」と「ふるさとの訛りなくせし~」について比較しながら、本歌取りについて考える。
    和歌における「本歌取りについて」確認する。
  2. 「みぞれ降る~」と「吊るされて~」について比較しながら、本歌取りについて考える。
    「ふるさとの訛なつかし~」と「ふるさとの訛りなくせし~」について、類似点と相違点を明らかにしながら鑑賞することによって「本歌取り」を理解させる。
  3. 「みぞれ降る~」と「吊るされて~」について類似点と相違点を明らかにしながら鑑賞することによって「本歌取り」を理解させる。
〈第二段〉(一四七・3~終わり)
  1. 「淡海の海~」と「たつぷりと~」について比較しながら、歌枕について考える。
    和歌における「歌枕」について確認する。
  2. 「淡海の海~」と「たつぷりと~」について鑑賞しながら、「歌枕」を理解させる。
〈第三段〉(一四八・8~終わり)
  1. 筆者が述べる、「本歌取り」と「歌枕」の類似点について考える。
    →深い学びのために〔学習のポイント1〕
    思判表
    前半の「本歌取り」を振り返りながら、「歌枕」との類似点について筆者がどのように論じているかを確認させる。
  2. 「歌枕」について筆者の考えを読み取る。
    近代短歌のキーワードが、新たな「歌枕」となって受け継がれているという筆者の考え方を理解する。
まとめと発展
  1. この文章を通して筆者が伝えようとしたことを確かめさせる。
  2. 近代短歌の表現について考えさせる。
  1. 全体の構成を理解し、筆者の主張をまとめる。
    古臭い修辞法のように思われている「本歌取り」と「歌枕」が、近代でも短歌の中に生きていることを確認する。
  2. 近代短歌のキーワードと「歌枕」の関係について考える。主態
    近代短歌のキーワードもまた受け継がれているという、表現の連続性について考える。
短歌十二首釈迢空・山崎方代・塚本邦雄・馬場あき子・栗木京子・穂村弘
導入
  1. 近現代歌人について理解させる。
  2. 教科書掲載の短歌について、概要をつかませる。
  1. 国語便覧を使用して釈迢空・山崎方代・塚本邦雄・馬場あき子・栗木京子・穂村弘について文学上の位置と役割を確認する。
    国語便覧の該当部分を読んで、短歌についての意識を喚起させる。なお、便覧に掲載されていない歌人については、事典やネットなどで調べさせる。
  2. 教科書掲載の短歌について概要をつかませる。
    →深い学びのために〔言語と表現12〕
    知技
    「短歌十二首」を音読して、掲載されている短歌の概要をつかむ。
展開
  1. 近現代歌人の作風の特長を理解し、主題をつかませる。
  2. 短歌の背景となる時代を理解しながら、短歌を鑑賞する。
  3. 戦中戦後の短歌や前衛短歌についても理解させる。
  1. 短歌一首の板垣・朗読・分析・読解・修辞法・鑑賞などの例を見て、今後の鑑賞方法を理解する。
    →深い学びのために〔学習のポイント2〕
    短歌一首を例として鑑賞のポイントを確認させる。「葛の花~」を例に挙げて鑑賞する場合は以下について考える。
    ・スペースや句点など表記上の工夫についての理解を深める。
    ・「踏みしだかれて」がどのような状況か、考えさせる。
  2. 二人一組(または班)で、釈迢空・山崎方代・塚本邦雄・馬場あき子・栗木京子・穂村弘の六歌人の短歌について、読解と鑑賞を行う。
    →深い学びのために〔学習のポイント3~7〕
    思判表
    上記の「学習活動」②③については、並行して行うことも可能である。例えば、興味を持った歌人ごとに分担しながら鑑賞し、発表し合うという方法もある。
  3. 班ごとに興味・関心のある歌を指摘する。
    →深い学びのために〔学習のポイント8〕
    主態
    釈迢空の「たたかひに」については、時代背景や子への思いを理解する。
  4. 山崎方代の短歌については、方代の独自な生き方を理解する。
    ・「ほとりと」がどのようなイメージなのか考える。
  5. 塚本邦雄については、前衛歌人としての理解をうながす。
    ・「日本脱出したし」と思っているは誰なのかを考える。
  6. 馬場あき子については、女流歌人としての側面も視野に入れる。
    ・「雪解なるべし」については、口語で言い換えてみる。
  7. 栗木京子の短歌の日常性について理解する。
    ・「想ひ出」という表現に、どのような心情が託させているか考える。
  8. 穂村弘の短歌にある現代的な視点について理解する。
    ・穂村弘の短歌で使用されている〈   〉の効果について考える。
まとめと発展
  1. 自身の感覚で短歌を鑑賞し、短歌についての理解を深めさせる。
  1. 「文学の窓」にある「『桐の花』の言葉」(俵万智)を理解し、各自で短歌の鑑賞文を書く。
    →深い学びのために〔言語活動1〕
    主態
    「文學の窓」にある俵万智「『桐の花』の言葉」を読み、鑑賞文の書き方を理解する。自分の体験に即した鑑賞文となっていることを確認する。
  2. 「短歌十二首」の中から、心に残った短歌を選び出し、二〇〇字程度の鑑賞文を書く。
    〈注〉基本的に個別の作業として行うが、選出した短歌や鑑賞内容の意見交換をすることによって、それぞれの視野を広げることもできて効果的である。
俳句十二句村上鬼城・河東碧梧桐・尾崎放哉・原石鼎・杉田久女・芥川龍之介・高野素十・後藤夜半・川端茅舎・中村汀女・篠原鳳作・高屋窓秋
導入
  1. 俳句独特のルールを理解させる。
  2. 作品を実際に読解しつつ、少ない文字数から読み取るべきことと、多様な想像をしてよい部分があることを理解させる。
  1. 俳句について知っている作品や作者などを確認する。
    生徒には自由に発言させる。
  2. 1を踏まえ、俳句の基本的な要素(定型・季語・切れ)について確認する。知技
    教科書の句やそれ以外の作品等で例示しつつ、俳句の基本的な要素(定型・季語・切れ)を理解させる。その際、「季語」についても具体例を示しつつ、四季を感じさせる言葉であること、また季語の本意についても歳時記などを参照し理解させる。
展開
  1. 好きな句を一つ選び、自分が読み取ったその句の情景を短い文章にまとめる。
    文章にまとめる際には、季語や切れなどを確認し、どこまでが作品に書いてあることと言えるのか、どこからが作品に書かれていることを根拠に想像できることなのかを意識させる。
    *句を扱うことが時間等で難しい場合、いずれか一句のみ取り上げ、じっくり読解させる方法でもよい。その際、生徒に発言を促したり、イラストを描かせてグループで見せ合い、どれが最も作品世界に即したイラストかを選ばせたり、その理由とともに発表させるなど、生徒主体の授業を行うことも可能である。
  2. まとめた文章をグループで共有し、それぞれの文章に意見を出し合う。主態
まとめと発展
  1. 全体を振り返り、俳句読解の特徴を整理する。特に、表現に即した適切な理解と、各自が想像してよい余白が同居した文学であることについて理解を深める。思判表
    季語や切れなどの俳句の基本要素が句を鑑賞する上で重要なポイントとなることを確認させる。また、表現に着目し、作品に書かれていることと、それを根拠に想像を広げることができる範囲を、授業における具体的な活動の場面を振り返らせる。

現場に来て初めてわかること高野秀行

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 作品が、どこの、どのような場所から始まるのかを理解させる。
  2. 文化や国籍、人種などの違いとは何かを考えさせる。
  1. 「日本」とは違う文化や生活様式で生きる人々が存在することを理解する。知技
    ソマリワールドを単なる観光地として考えさせないようにする。例えばソマリワールド以外でも、どのような人々が住み、どのようなライフスタイルで生活しているのかを想像することが難しい国や場所を考えさせるようにする。グローバル化が前提とされている世界で、自分の想像力が及ばない人々や場所があることを意識させたい。ソマリワールドが正式な「国家」ではないということの意味を考えさせる。
  2. 「日本」の国内における「外国人」や異文化の問題を考えられるようになる。
    「外国人」や異文化は国外だけの問題ではなく、「日本」の国内でも様々な形で人々が体験している事柄だということを知らせる。それが現在のどのような社会問題として現れているのかなど、自分たちの身近な例から考えられるようにする。
展開
  1. どのような場面なのかを理解させる。
  2. 登場人物を理解させる。
〈第一段〉(初め~みんな、笑顔だ。)
  1. ソマリワールドがどこに位置する場所か理解する。
    ソマリワールドが地理上のどこに存在する場所なのかを明らかにする。その場合ソマリワールドが、所謂「日本」などの国民国家とは性質を異にする共同体であることを認識させたい。
  2. 「私」とカメラマンの出会いを把握する。
    「外国人」をほとんど見ないソマリワールドで「私」が「日本人」のカメラマンと出会った状況と、その時「私」はどのような気持ちだったか考えさせる。また、「私」がカメラマンから見せてもらった、「難民」の「笑顔」の写真を見た時の気持ちも考えさせる。
  1. 「難民」とは何かを理解させる。
  2. 「難民」の生活環境を考えさせる。
  3. 「難民」の「笑顔」の意味を予想させる。
〈第二段〉(今回、「六十年に一度の大飢饉」という~そういう女性がいた。)
  1. 「難民」とはどのような存在なのかを理解する。
    「難民」という存在からどんなことがイメージできるかを問いかける。日本における「難民」をめぐる社会問題など、生徒が知っている「難民」のイメージをまずは引き出したい。生徒たちが「日本」の社会問題の中から「難民」を考える機会を作る必要があるだろう。
  2. 「難民」とはどのような場所に住み、どのようなものを食べているのか。その生活様式を理解する。
    「難民」がどのように「日本」では報道されているか、報道内容などを実際の新聞やニュースの報道記事などから生徒に示すとよい。そのメディア報道で知られる範囲で、「難民」がどのような場所に住み、そしてライフスタイルを有しているのかを報道のレベルで知ることが大切である。
  3. 「難民」と「笑顔」のイメージのギャップを考えるようになる。
    なぜ「難民」が「笑顔」なのかを生徒に時間をかけて考えさせたい。「難民」は国を追われ、財産と家族を失っているというイメージで語られることが多いが、それと「笑顔」のギャップはどのように考えればよいだろうか。写真の中の「笑顔」が作品の中でどのような意味を持っているのかを、作品全体を理解するためのきっかけとしたい。
  1. 戦争や紛争地帯での悲惨な出来事について考えさせる。
  2. 政府やマスメディアなどの報道が作り出すステレオタイプなイメージについて考えさせる。
  3. 「笑顔」が示す「リアル」さとは何かを考えさせる。
〈第三段〉(難民だけではない。~伝えていると思うのだが……。)
  1. 「難民」だけではなく、世界中で悲惨な体験をしている人々がいることを意識するようになる。
    戦争や災害などで人々が家族や財産を失う機会があることを理解させる。「日本」でもアジア・太平洋戦争の中で、被災する人々がいたということを歴史的に理解させる必要があるだろう。その様な悲惨な境遇で人はどのように生きてきたのであろうか。その点に想像力を働かせることで、作品の「難民」の「笑顔」がどのような意味を持っているのかを考えさせてみたい。
  2. 政府やNGOから発表される報道、およびインターネットを始めとする、テレビやラジオ、新聞などのマスメディアの報道が、どのように人々にステレオタイプなイメージを植え付けるのかを考えられるようになる。
    マスメディアが報じる「難民」のイメージはどのようなものかを考えさせたい。そのような「かわいそうな難民」というステレオタイプなイメージが、実は「難民」の「現場」での「真実」を隠してしまう場合がある。では、なぜ隠してしまうのかを考えさせなければならないだろう。ただし、ここで注意すべきなのは、マスメディアが作り出すイメージをすべて〈悪〉というふうには考えさせないことである。マスメディアが報じる情報を生徒自身が論理的に読み解かねばならないことを伝え、メディア・リテラシーの必要性を強調する必要がある。
  3. 「現場」の「リアル」が何を表現しているのかを理解する。思判表
    「現場」の「リアル」とは何かを考えさせたい。「かわいそうな難民」というイメージが「プロパガンダ」だとすれば、「笑顔」は、「難民」は幸せだということのイメージだろうか。「私」はそうとは考えておらず、その「笑顔」の本当の理由の中に「現地の困難さ」を見出している。「笑顔」は難民キャンプでひと時の安心を得たために現れるもので、「難民」が実は厳しい境遇に置かれていることの裏返された表情だという点を理解させなければならない。
まとめと発展
  1. 「私」の「勘違い」が何かを理解させる。
  2. 「犬」がイスラム圏でどのようなイメージの動物かを考えさせる。
  3. 「市場跡」に「犬」がなぜ多いのか考えさせる。
〈第四段〉(そんなことを瀧野さん~話を聞いて愕然とした。)
  1. 「難民」については「リアル」を理解していた「私」が、何に「勘違い」をしていたかを考える。
    「難民」については「現場」の「リアル」を意識していた「私」が、「勘違い」していたことが何であるかを意識させる。「私」は「現場」の「リアル」を大事にしているわけではあるが、そこまで注意深く考えていても、なお「勘違い」が発生してしまう問題を示したい。
  2. 「犬」がイスラム圏では、「不浄の動物」だとされていることを知る。
    「勘違い」の発端である「犬」がイスラム圏ではどういう扱いを受けているかを説明する。また文化や宗教の違いによって、動物の扱いがどのように違うのかも意識させたい。
  3. 本来迫害されているはずの「犬」がなぜ「市場跡」には多くいるのかを予想する。
    本来「犬」はソマリワールドでは迫害されて少ないはずにもかかわらず、「犬」が「市場跡」にはなぜ多いのかを考えさせたい。その理由を考えることで、「私」の「勘違い」が何であったのかを理解させることができる。
  1. 「犬」が「市場跡」に多くいた理由を明らかにする。
  2. 結論として「自分の希望に沿わない現実」を考えさせる。
〈第五段〉(瀧野さんは私が訪れた翌日、~終わり)
  1. 「犬」たちが「兵士の死体」を目当てに集まってきていたことを知る。
    「犬」が「市場跡」に集まってきていた理由が「兵士の死体」であったことを明らかにする。その時、「市場跡」になぜ「兵士の死体」が存在するのかを考えさせたい。ソマリワールドでは、日常生活と軍による戦闘が密接していること、そのために「難民」もまた存在するということを理解させなければならない。「犬」が多いことと「難民」が存在することには、作品の中でつながっている出来事なのだ。それが「現場」の「真実」といえる。
  2. 「自分の希望に沿わない現実」とはどのようなものかを考えられるようになる。主態
    「まとめ」として「自分の希望に沿わない現実」を考えさせたい。人々は「自分の希望に沿わない現実」を見ないようにするため、「プロパガンダ」やマスメディアのイメージの中で「真実」を探そうとする。しかし、本テキストを読解する中で、そのような「ステレオタイプ」のイメージを壊す実践が可能になる。「自分の希望に沿わない現実」とは、現代においてはどのようなものがあるか。具体的な事例を出しながら議論してもよいだろう。

空缶林 京子

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 全体の内容をつかませる。
  2. 小説の時代背景を調べさせる。
  3. 当時の状況を全員に共有させる。
  1. 全文を黙読する。
    読んだ後、感想を言ってもらうことを予め指示する。
  2. 読後の感想を発表する。
    簡単な感想で構わない。用紙を配付し書かせて回収するのもよい。
  3. 五人ずつのグループに分け、それぞれ司会を決める。
    最初のうちは司会を教師が決めたほうがよい。話し合いになれてきたら、誰でもできるようにしておくのがよい。
  4. 一つのテーマを二班で調べる。知技
    (1) 長崎原爆について
    (2) 作者林京子について
    (3) 原爆症について
    (4) 学徒勤労動員について
    テーマは抽選で決めたほうがよい。図書室など資料のある場所で調べさせるとよい。また、インターネットで調べさせるのもよい。いずれの場合も引用した資料の出典名を必ずメモさせる。そして、資料は一つではなく、二つ以上に当たらせ、比較したうえでまとめるようにさせる。作業が一人に集中しないようし、協力して調べる習慣を身につけさせる。
  5. 各グループが話し合いのまとめを発表する。
    発表を工夫させることも必要である。と同時に聞く態度に注意させる。聞きながらノートにメモをさせるとよい。
展開
  1. グループでの話し合いにより、より深い読み取りを行わせる。
  2. 小説の舞台となっている所を読み取らせる。
  3. 登場人物をそれぞれつかませる。
  4. 作者は原爆をどう描こうとしているかを知る。
  1. 前時の復習として、長崎原爆について確認をする。
    前時の発表をもとに、長崎原爆について学習者全員が共有しておくことが、重要である。
  2. 五人ずつのグループに分け、司会を決める。
    前時のグループと同じ方が時間も取られずによいか。司会は持ち回りにして、違う生徒にさせたほうがよい。
  3. 次の四つのテーマについて各グループで話し合う。同じテーマで二つのグループが話し合う。主態
    (1)いつ、どこでの話なのかを確認し、それがどのような意味があるのか。
    (2)登場人物、六人(きぬ子を含む)について、それぞれどのように描かれているか。
    (3)「予定が組まれたら進まなきゃならない」(一七二・下7)という西田の発言をどう考えるか。
    (4)「私」が在学中のきぬ子を覚えていなかったのは、なぜか。
    テーマは、各グループで選ばせるより教師のほうで決めたほうがよい。問いとして誰でも考えなければならないものであり、どれがよいという問題ではないからである。話し合いをしているときは、机間巡視し話し合いへの姿勢や意見の内容などをチェックして評価していく。
    (1) 小説の三要素のうちの場所と時間である。的確に捉えておく必要がある。時間と場所は答えは一つになるが、それらが小説のテーマとどう結びつくかは、いろいろな解釈が可能である。
    (2) 「学習のポイント」⑴のように昭和二十年とその後とに分けるのもひとつである。それにとらわれずに、いろいろな点で比較してみるのもよかろう。皆に分かりやすいように、書かれている箇所のページと行数とをメモするよう指示しておく。
    (3) さまざまな意見が出よう。西田がなぜこのように言うかを読み取らせたい。また、それをどう捉えるかは別にして、西田が被爆していないことを読み取ることが条件となる。どれが正しいということはないので、それぞれの意見を尊重しながら話し合いを進めるようにさせたい。
    (4) いろいろな回答、解釈が可能な質問である。ただ、自分の意見が文中のどの表現をもとにしたものかを示すことが必要であることを指示しておく。その際にもページと行数を示すようにさせる。
  4. 各グループの司会者が話し合いのまとめを発表する。
    聞く者は、発表が終わるまでは質問はしないで、メモをとっておくように指示をしておく。
  5. 各グループの発表が終わったら、質疑応答をする。
    基本的に司会者が質問に答えることにするが、それ以外の者でも答えることもよしとする。
まとめと発展
  1. 疑問点を共有して、読みを深めさせる。
  2. 主題をつかませる。
  3. 作者の他の作品と詠み比べをさせる。
  1. 前時にした質問以外で、この小説を読んで、気になった点をあげ、皆で考える。
    例としては、校舎内の講堂、教室の配置はどうなっているのか、きぬ子は両親の骨をどうやって空缶に入れたのか、などが考えられよう。出た疑問点を板書し、皆に意見を発表させてまとめる。
  2. 最後の一文「光の中に取り出された白い脂肪のぬめった珠は、どんな光を放つだろうか」は、どういう意味を持つのか考える。思判表
    この問いは、前時の各グループの発表をもとにして、小説全体で考えさせたい。さまざまな観点からの発言があってよい。答えをまとめるというより広げたほうがよい問いである。最後に課題として、各自で四〇〇字程度でまとめる作文を出すことも有効である。
  3. 「祭りの場」(林京子)と読み比べる。
    重複する内容も多いが、小説の終わり方を詠み比べてみるとよい。

野火大岡昇平

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 作者についての必要事項を学ばせる。
  2. 作品についての概要を学ばせる。
  3. 本文を通読させたうえで、内容に関しての感想を持たせる。
  1. 作者について、概要を学ぶ。
    教科書一八五ページの作者紹介を読ませたうえで、大岡昇平が戦争末期に召集されてフィリピン戦線に送られ、そこで捕虜となって終戦を迎えたことなどを確認させる。なお、大岡が送られたのはミンドロ島であり、「野火」の舞台のレイテ島ではないことについて、注意を向けさせる。
  2. 「野火」について、概要を学ぶ。
    教科書一七九ページのリード文を読ませたうえで、「野火」は中編小説であり、教科書に収録されているのはその一部であることを確認させる。また、教科書一八〇ページの地図をはじめ、必要に応じてレイテ島に関するビジュアル資料などを見せ、関心を持たせてもよいだろう。
  3. 指名により、全文を通読しながら、キーワードや難語句をチェックする。
    キーワードや難語句の中には軍事に関するものも多い。あらかじめ写真や画像などのビジュアル資料を準備しておき、必要に応じて生徒に見せるのもよい。通読の感想については、語り手「私」の心理状態は決して一貫したものではなく、その思考の内実も一読しただけでは読み取りづらい。まずは通読の限りで彼の言動をどのように捉えたか、簡単な感想を述べさせる程度に留めるとよいだろう。
展開
  1. 作品の段落構成を把握させる。
  2. 第一段の冒頭、「私」がどのような状況にいるのかを理解させる。
  3. 「私」の前にフィリピン人の男女があらわれ、女性を射殺するまでの「私」の心理について考えさせる。
  4. フィリピン人女性を殺害後の「私」の心理について考えさせる。
  5. 「私」はなぜ銃を捨てたのか、理解させる。
  6. 「私」の「孤独」とはどのようなものか、理解させる。
〈第一段〉(初め~一八〇・上5)
  1. 教科書収録範囲の段落構成を把握したうえで、第一段を読解する。
    第一段は教科書収録範囲の序段にあたる。教科書一七九ページのリード文も踏まえたうえで、「私」がどのような状況にいるのか、その心理状態なども含めて理解させる。また、集落にたどり着くフィリピン人の男女と「私」が対照的な関係にあることにも注目させる。
〈第二段〉(一八〇・上6~一八二・上5)
  1. 第二段の読解。「私」がフィリピン人男女と出会い、女性を射殺するまでの心理について考える。
    フィリピン人の男女の前に姿を見せるまでや、「パイゲ・コ・ポスポロ」と語りかけたときの「私」の心情、そして女の叫び声を耳にしたときの怒りなど、「私」の心理状態の変化について、順を追って確認させたい。「ドストエフスキーの描いたリーザとの著しい類似が、さらに私を駆った」という記述をめぐっては、「罪と罰」におけるリザヴェータ殺害の箇所を参照させてもよいだろう。
  2. フィリピン人女性を殺害した後の「私」の心理について考える。
    逃げた男を追いかけて銃を乱射し、引き返すときになぜ「私」は笑っているのか、その心理についてまずは考えさせる。さらに、引き返した後、「私」はなぜ女の口に耳を近づけ、彼女が息絶えるまで音を聞き続けたのかについても考えさせる。そのうえで、「私はまた私の山に帰らねばならぬ」という「私」の言葉の意味を理解させる。
  3. 「塩であった」でこの章が終わることの意味について考える。
    戦場においていかに塩が貴重であるかをまずは理解させたうえで、その塩を発見したときの「私」の心理について、フィリピン人との対比も踏まえて考えさせる。
〈第三段〉(一八二・上9~一八二・下8)
  1. 第三段の読解。集落を離れたときの「私」の心理について考える。
    第三段の冒頭で、「私」が雑嚢に塩を詰められるだけ詰めていることについて、第二段末尾とのつながりも踏まえて考えさせる。また、「私」が集落を離れるときに犬の声があちこちで起こり、「声だけ村を外れても、林の中まで、追ってきた」と記されていることに注目させ、その表現上の効果について読み解かせる。
  2. 女の殺害をめぐる「私」の自己省察を読み取る。
    殺した女の姿態の詳細が頭を離れない「私」は、戦場では殺人とは日常茶飯事であり、女が死んだのは「偶然」・「事故」であると考えているが、一方でその心中は「悲しみ」で満ちている。このような「私」の矛盾する心理と思考について、注目させる必要がある。それを踏まえたうえで、「なぜ私はこんなに悲しいのか」、その意味を考えさせる。
〈第四段〉(一八二・下9~一八四・上1)
  1. 第四段の読解。川の橋で水を眺めているときの「私」の心理について考える。
    川の水の「規則あり気な、繰り返す運動」を眺め続ける「私」は、そうした繰り返しが自然だけでなく人生の中にもあるべきであったのに、その循環から自身が外れてしまったことを確認している。注15の内容も踏まえたうえで、「私」がこのような自然観・人生観をここで示しているのはなぜか、考えさせる。また、第二段における、「私はまた私の山に帰らねばならぬ」という「私」の心理とも関連づけられることについて、注目させるとよい。
  2. 「私」が銃を眺めた後、それを捨てた理由について考える。
    まず、「私」が持っている三八銃の「遊底蓋に菊花の紋が、バッテンで消してあった」という記述に注目させる。菊花の紋とは皇室の紋章であること、つまり銃は天皇・国家から支給されたものであり、戦場においては何よりも重要視されるものであることも理解させる。そのうえで、「私」が持っている銃の菊花の紋が「バッテン」で消してあるのはなぜか、その理由を想像させるとよい。これらを踏まえたうえで、戦場でその銃を捨てるという行為がいかに大きな意味を持つか、理解させる。
〈第五段〉(一八四・上2~終わり)
  1. 第五段の読解。銃を捨てたことによる、「私」をめぐる状況の変化について考える。
    「私を取り巻く野が、不意に姿を変えた」という表現に注目させ、その理由について考えさせる。その直後に記される「私」の空間認識を読み取らせ、戦場で銃を捨てるという行為が意味することについて改めて理解させる。
  2. 「私」の「孤独」について理解する。思判表
    第一段の冒頭部分より「私」は「孤独」を抱いていたと考えられるが、そのときの「孤独」と、ここでの「孤独」は当然ながら異なるものだろう。フィリピン人女性の殺害と「私」が抱く「悲しみ」、銃をめぐる「私」の認識とそれを投げ捨てるという行為など、ここまでの「私」の心理の変化や自己省察を踏まえて、「私」が抱く「孤独」とはどのようなものか理解させる。その過程で、「私」が抱える「孤独」は「国家」とどのような関係があるかについても、理解させる。
まとめと発展
  1. 「私」の心理・言動の変化をまとめさせる。
  2. 作品が発表された時代状況について考えさせる。
  3. 言語活動への発展を図らせる。
  1. 全体のまとめを行う。
    これまでの読解を踏まえたうえで、「私」の心理の推移についてまとめさせる。
  2. 一九五〇年代前半にこの小説が書かれた意義について考える。知技
    「野火」初刊単行本が発行された一九五二年当時、アジア太平洋戦争をめぐる様々な小説・記録が発表されていたが、その多くは「被害者感情」に終始し、「加害者」であることの認識に欠けていた、としばしば言われる。そのことも踏まえたうえで、フィリピンの民間人女性の殺害を描いた「野火」の意義について、考えさせる。
  3. 言語活動1、2に取り組む。主態
    「野火」は現実のフィリピン戦線を舞台とした、フィクションである。そのことを確認したうえで、言語活動1、2を通して、この小説についてより多面的に考えさせるとともに、生徒の歴史認識も深めさせたい。

転移する記憶岡 真理

導入
展開
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 既習教材との関連を理解させる。
  2. 評論に頻出する表記法、記号を付して表記された語の位置づけに注目させる。
    (「〈出来事〉」等)
  1. 既習教材の学習をふりかえり、記述された挿話に伴う「腑に落ちなさ」について考える。
    本単元「戦争と記憶」の最後におかれた教材であることに留意し、他の教材との接続を意識したい。たとえば「空缶」における、大文字の表象としての戦争体験の記述とは質を異にする登場人物たちの挿話への注目などが考えられる。
  2. 「〈出来事〉」と表記される経験として、どのようなものが想定されるか考える。
    教材全文の読解後に再度検討したい問いである。ここでは予告的に触れ、詳細に立ち入って論じる必要は必ずしもない。一般的な「出来事」とは異なる性格を付与された語としての「〈出来事〉」を了解させることが重要である。
  3. 評論の読解におけるポイントを学ぶ。ここでは語の表記法に注目し、特殊な表記をされた語には、しばしば筆者にとっての固有の意味が付与されていることを理解する。知技
    汎用的な知識として、評論における表記法への注目を促したい。
    記号が付された語や傍点を付された語は、一般的な語彙に属する語であっても、筆者による特殊な意味を付与されている場合があることを学ばせたい。
展開
  1. 段ごとに読解を進め、整理と分析をさせる。
  2. 第一段から第三段まで抽象性の高い文章が続くため、適宜生徒に具体例を考えさせる、教員が例示を行うなど、準備をしたい。
  3. 〈第五段〉の指導では、具体と抽象の関係に十分に注意させる。
  4. 本文で紹介される「ヘル・ウィズ・ベイブ・ルース」の発話が、筆者にとってどのような事柄を考察する糸口なのか、生徒自身が説明できるようにさせたい。
〈第一段〉(初め〜一八六・10)
  1. 倒置的な表現と構成に注意しながら、形式段落1と2の内容を整理する。
    今ある世界とは別の世界の創設のため、現在から未来において歴史の言説を構成する主体である生き残った者=私たちは〈出来事〉の記憶を分有する必要がある。
    この分有の達成のための〈出来事〉の語りの可能性をめぐる考察が、本教材の中心的な主題となっている。
  2. なぜ〈出来事〉の記憶の分有が必要とされるのか、本文に即して整理する。
    筆者の執拗なまでの考察の根底に存する問題意識を確認したい。〈出来事〉の記憶の分有がされなければ〈出来事〉とその内を生きた者の存在は忘却され、ときに不都合な歴史の経験として捨象されたり、都合のよい物語へと書き換えられたりすることになってしまう。
〈第二段〉〉(一八六・11〜一八七・8)
  1. 出来事の表象不可能性―語ることや表現することが不可能であることと、〈出来事〉の備えた「ある過剰さ」という特質を確認する。
    圧倒的な〈出来事〉を前に、ひとが〈出来事〉に関する語りを試みれば試みるだけ、その語り尽くせなさや語りに伴われる不全感に慄然とするような場面を想起させたい。ここでは物理的な表現の可否という問題以上に、一貫した語りを拒む/から外れるという〈出来事〉の特質を確認したい。
〈第三段〉(一八七・9〜一八八・14)
  1. 「他者による表象の暴力」に関する、教材の二つの言及を指摘する。
    抛擲され続けることも含めて、一方的に〈出来事〉が表象される暴力性をおさえた上で、形式段落5の後半の言及に目を向けたい。あくまでも記憶の分有を志向する筆者にとって〈出来事〉の〈真実〉を語る狭義の当事者とその聴衆という関係は十分な適切性を欠いているのである。
  2. 語りえないことを語る語りという、殆ど不可能事を追求する筆者の問いを確認する。
    〈出来事〉の最も中心に存在した当事者は語る回路を持ちえない。そこで当事者ではない他者が、語ることのできないはずの〈出来事〉をその語りえなさを理解した上で、それでもなお語る回路を探るという矛盾を孕んだ問いが提示されている。
〈第四段〉(一八八・15〜一八九・6)
  1. 〈出来事〉と人間の関係を確認する。
    人が〈出来事〉を(選択的に)領有するのではなく〈出来事〉が(ときに避けがたく)ひとを領有してしまう関係にあることを確認する。
〈第五段〉(一八九・7〜終わり)
  1. 「ヘル・ウィズ・ベイブ・ルース」の発話についての筆者の理解を整理する。思判表
    安易な合理化を拒み、〈出来事〉の存在を指示して記憶を転移させる糸口となる言葉の例として「ヘル・ウィズ・ベイブ・ルース」は紹介されている。ここでは、その非合理性や完結した物語への還元を拒む性格といった特質について確認させたい。
  2. 〈出来事〉の記憶の転移と分有について、教材における筆者の結論を確認する。主態
    筆者は必ずしも明快な結論を準備しているわけではない。〈出来事〉の記憶の分有という営為が安易な物語化を拒む細部や不可解さへの着目という地点に定位していることは確認する。歯切れの悪さも含めて〈出来事〉の記憶の分有の容易ならざる側面にここでは思いを致したい。

本を読む蜂飼耳

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 読書について持っているイメージを共有させる。
  2. 本文を通読し、全体像をつかむ。
  1. 読書について抱いているイメージを各自発表し合う。
    高校生となると読書の量や質に大きな差が出ていることも少なくない。その善悪を話すのではなく、自分たちにとって読書が身近か、なぜ読書をするのか等を挙げさせる。
  2. 指名により全文を通読させながら、難語句などをチェックさせる。読後、段落分けを考えさせる。知技
    全文通読の前に、全体の構成をつかむという意識を生徒に持たせる。
展開
  1. 長谷川時雨の読書に対する心情を正しく理解させる。
  2. 菅原孝標女の書物に対する心情を正しく理解させる。
〈第一段〉(初め~一九七・7)
  1. 長谷川時雨について理解する。
    林芙美子や平林たい子など、昭和初期の女流作家について学習する機会が少ない生徒も多いので、当時の女性が置かれていた立場にも触れさせたい。
  2. 長谷川時雨がなぜ稽古を待つ時間が好きだったのかを理解する。
    師匠の家の本の描写を手がかりに、長谷川時雨が本に相対した時の高揚感を理解させる。また、長谷川時雨がまるで現代に生きる少女であるかのような親近感を抱かせる『旧聞日本橋』の描写の巧みさにも気づかせたい。
〈第二段〉(一九七・8~一九七・16)
  1. 「熱意の角度」とはどのような角度なのか考える。
    「熱意の角度」という表現について話し合わせ、その表現力の豊かさを味あわせると同時に、「熱量」の大きさがありふれた表現では足りないほど大きいものだということに気づかせる。生徒からの反応が薄い場合は、この角度は「鈍角」か、「鋭角」か、という選択から話し合いを進めさせてもよい。
    時に曖昧さの無い数値や文言だけでは伝えきれないものを文学的な表現で伝えることが可能になる、ということにも気づかせたい。
  2. 菅原孝標女が「后のくらひも何にかはせむ」と感じたのはなぜか、理解する。
    当時の貴族の女性の「幸せの尺度」を超えたところにある書物のもたらす楽しみがどれほど大きなものであるのかを、当時の貴族の価値観を踏まえて理解させる。
    また、平安時代にも菅原孝標女のように、いわゆる「世間の価値観」を超えた「自分の個人的な喜び」を書き残す人物が存在したことにも触れておきたい。
まとめと発展
  1. なぜ「本を読む」という行為には普遍性が伴うのかを理解させる。
  2. 「本を読む」ことを共有させる。
〈第三段〉(一九七・17~一九八・16~最後)
  1. 長谷川時雨と菅原孝標女の共通点を理解する。
    彼女たちがたった一人で「本を読む」ことを愛し、そしてそこにとどまらず、「本を読むことの愛おしさ」を書き残していることで、個人の体験を他者と共有している点に着目させる。
  2. 「本を読む」という行為が普遍的なものであることを理解し、その理由を考える思判表
    「本を読む」行為は個人的に味わった幸福を他者と国境も時代も超えて共有することのできるものであり、またその時間そのものを慈しむことのできる体験でもある点に気づかせたい。
  3. 今まで読んだ小説について意見交換をし、小説の魅力を再発見する。主態
    今までに読んだ小説の中で印象深かったものについて発表し合い、質疑応答や意見交換をさせ、新たな小説の魅力に出会わせる。

檸檬梶井基次郎

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 本文を音読させ、読後の感想をノートにまとめ(発表)させる。
  2. 小説全体の構成を把握させる。
  1. 本文全体を音読しながら、難解な語句や気になった表現をチェックし、三つの意味段落に分ける。また、読後の感想をノートにまとめたうえで、クラス内で発表しあう。主態
    先入観を植えつけないために、まずは作者に関する情報や発表された時代状況について触れずに音読させ、読後の感想を各自のノートにまとめさせる。
  2. 形式段落に分けたうえで、物語の展開に沿って三つの意味段落に区分させる。その際に、この物語が回想形式で語られていること、三つの意味段落がどのようにつながりを有しているのかを個人またはグループで考えさせる。
展開
  1. 第一段の記述内容をもとに「私」のおかれた状況について情報を整理させる。
  2. この物語が回想形式で語られていることに注意させる。
〈第一段〉(初め~二〇二・12)
  1. 「えたいの知れない不吉な塊」と「肺尖カタル」「神経衰弱」「借金」の関係について話し合う。
    「私」に心理的な変化をもたらした「不吉な塊」の内実について考察させる。また、「不吉な塊」が到来する前後で「私」の好むものに変化が生じたことを理解させる。
  2. 「私」が「その頃」ひきつけられたものと、生活がむしばまれる「以前」に好んだものを整理し比較する。
    「その頃」と「以前」の「私」が愛好する対象をそれぞれノート、黒板に整理させる。とくに「丸善」をめぐる反応の変化は、第三段に帰結することに注目させたい。また、そうした「私」を語る現在の「私」の位置にも注意させる。
  3. 形式段落③で、「私」が「現実の私自身を見失うのを楽しんだ」とある点に注意させる。ここからは「現実の私」を直視し得ない「その頃」の「私」、「現実の私」からの逃避を希求するものの「想像」することしかできない「私」の切迫した様子を読み取ることができる。
  1. 「私」の感受性が街中のどういった風景に向けられるかを理解させる。
  2. 「檸檬」に対する「私」の感覚を整理させる。
〈第二段〉〉(二〇二・13~二〇六・15)
  1. 「私」がその「果物屋」を「最も好き」と語る理由、回想の物語で「果物屋」エピソードが組み込まれた理由を考察する。
    昼と夜とで「果物屋」に対する「私」の感じ方が相違している点に注意させる。そもそも檸檬の購入が日中になされているにもかかわらず、なぜここで夜の「果物屋」の記述が挿入される必要があるのか、この点についても考察させる。とくに「店頭の周囲だけが妙に暗い」という一節に見られる「暗さ」のなかに光明のように浮かび上がる果物・青物に「その頃」の「私」が「美しさ」を覚えていることを理解させる。
  2. 檸檬を手に入れたことで「私」の心理がどのように変化したか理解する。
    夜の「果物屋」の「周囲が真っ暗なため、店頭につけられた幾つもの電灯が驟雨のように浴びせかける絢爛」に「その時々の私」が魅了されることに注目させる。そのうえで〈闇〉のような「不吉な塊」に抑えつけられていた「私」が、一個のありふれた「檸檬」という〈光〉を得たことを結びつけて解釈させる。そうした置き換えを起点として「私」が「冷覚や触覚や嗅覚や視覚」といった実感の確認へと移っていくことも理解させる。
  1. 「私」の心理の推移を場所や行動に即して理解させる。
  2. 「私」の「想像」がどのように機能しているかを理解させる。
〈第三段〉(二〇六・16~終わり)
  1. 「私」の心理の推移をたどる。
    「憂鬱」になった「私」が「檸檬」によって「幸福な感情」を取り戻す経緯を整理する。
    「以前にはあんなに私を引きつけた画本」という一節にある「以前」が、「生活がまだむしばまれていなかった以前」であることに注意させる。「檸檬」を手に入れたことで「えたいの知れない不吉な塊」に抑えつけられた「その頃」の心情から一時的に放され、「以前」に戻ったことを理解させる。
  2. 「私」の「想像」の内実について、第一段、第二段の内容と結びつけて考え、クラス内で話し合いをする。
    第三段の丸善での「私」の想像・行動がけっして突飛な思いつきではなく、これ以前の物語内容と緊密にかかわりあって周到に準備・構成されていることに注意させる。「檸檬」を据えつけた「幻想の城」は夜の「果物屋」の場面(第二段)と、「丸善」が「木っ端みじん」になる「想像」は「京都から逃げ出して誰一人知らないような市へ行ってしまいた」い「私」が試みる「錯覚」と「想像」(第一段)から展開する「心」の動きにほかならない。
まとめと発展
  1. 各段の記述内容を踏まえて小説全体の構造を整理し、物語の作られ方について把握させる。
  2. 作者と同時代状況に関する基本的な事項について調べさせる。
  1. この小説が回想形式の語りを採用している点に注目し、過去の出来事がどのように再構成され、「えたいの知れない不吉な塊」がどのように可視的に描かれているかについて理解を深める。思判表
    この小説は回想の形式を採り、結果的に三つの「私」が組み合わさっていることに注意させる。このことは、「何かが」とか「なぜだか」「どうしたことだろう」のように「その頃」の自身の心理をめぐって多くの「問いかけ文体」(磯貝英夫)を散りばめて語る現在の「私」のあり様をも示唆するものである。つまり、「不吉な塊」に抑えつけられた「その頃」の「私」の状況を、現在の時点から「問いかけ文体」で語る「私」が、そうした憂鬱に支配された状況を完全に脱しているわけでない様子も浮かびあがってくる、こうした構造にまで眼を向けさせたい。
    また、「その頃」の「私」が、「現実の私」を一時でも忘れて心の平穏を得るためにとり得る方策は、同時代の有島武郎や芥川龍之介のような自死の形をとる可能性も十分にあり得ただろう。しかし、「錯覚」と「想像」とによって自分の不可思議な「心」を微細にコントロールする術を有していた「私」は、一時的にせよ「現実の私」を解放する「檸檬」というアイテムを入手するにいたる。こうした知的な操作を通じて「私」が自らを救済している点まで考えさせる。
  2. 梶井基次郎と同時代状況について各自で調べ、小説の外部情報を接続してこれまでの読みを補完する。知技
    作者梶井基次郎と同時代状況についてグループで調べさせる。当時の梶井の病気や退廃的な生活を押さえつつ、第一次大戦、シベリア出兵、プロレタリア文学の胎動、有島武郎の情死、関東大震災の発生、芥川龍之介の自死等の社会状況、文学状況を小説の背景として確認させる。以上の情報を各自で「読後の感想」につづけてまとめさせる。

下町(ダウンタウン)林芙美子

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 小説の時代背景、および主人公がいる場所を読み取らせる。
  2. 小説全体の内容を大まかに把握させる。
  1. 小説全体を読み、時代を表わす言葉や、地名、土地を表わす言葉を探し出す。知技
    細部の読解は次の「展開」で行うが、導入段階で小説の時代背景をおおまかに押さえておくことが、生徒たちが小説を理解することの第一歩となる。たとえば小説の中に時代を表す言葉があるか問いかけ、「戦争気分が残っているように」(二一六・下5〜6)、「兵隊から戻ったら」(二二二・下10〜11)、「戦争って奴は、人間を虫けらみたいにしちまったね」(二二三・上5)という言葉を確認させ、戦災直後であることを理解させたい。地名については、「葛飾」(二一四・上6)、「下谷」(二一五・下9)「浅草」(二一九・上3)、「上野公園」「上野」(二一九・上6〜7)、「隅田川」(二二五・上4)に注目させ、地図で場所を把握させる。
  2. 段落分けの後、簡単な感想文を書き、物語のかたちを考える。思判表
    簡単な感想文を書かせて、生徒がどのような点に注目しているのかを理解する。また、「下町」は三人称小説で、語り手が主人公・りよの視点に沿って物語を展開していることを生徒に説明する。
展開
  1. 小説冒頭部分から、主人公・りよがどのような立場に置かれているか考えさせる。
  2. りよと「男」(「鉢巻の男」=鶴石)の会話から、りよの境遇、鶴石の人柄を考えさせる。
  3. りよが周囲との間に感じる距離は、何が原因なのか考えさせる。
  4. りよが初めて訪れる「浅草」について、戦災直後という時代背景をふまえて理解させる。
  5. りよと鶴石の気持ちの接近と逡巡について、りよと鶴石それぞれの境遇と時代性を踏まえて整理させる。
  6. 鶴石の死を聞いたりよの心境を理解させる。
  7. りよが「女たち」を「自分と同じような女たち」と考えたのはなぜか、考えさせる。
〈第一段〉(初め~二一六・上17)
  1. りよが「葛飾の区役所」の場所を知らない点や茶を売り歩いている点から、どのような人物か考える。また「鉢巻の男」(鶴石)の言動から彼の人柄を考える。
    りよが「葛飾」に土地勘のない者であること、寒いなか、茶を売り歩く行商をしている点に注目させるとともに、口数は少ないが、りよを気軽に火にあたらせ、腰掛を譲る「鉢巻の男」(二一四・上12、鶴石)の人柄も考えさせる。なお、「葛飾」については教科書の注1(二一五)で確認するとともに、「葛飾の区役所」(二一四・上6)にも注目したい。『葛飾区史』下巻(編集兼発行・東京都葛飾区役所、昭四十五)によれば、葛飾区は東京の各地の戦災状況と比べると、被害は比較的少なかった。葛飾区役所は昭和二十年二月十九日の空襲で全焼、仮庁舎を区内梅田国民学校、のちに本田国民学校に置き(前掲『葛飾区史』一四〇六・一四〇七頁)、戦後、区役所本庁舎は昭和二十三年に建て直された(「年表 現代 昭和時代(後編)~平成時代」「葛飾区歴史」、葛飾区https://www.city.katsushika.lg.jp/history/chronology/5.html 令和四年八月十二日最終確認)。小説が発表された年(昭和二十四年)を踏まえると、りよに区役所の場所を尋ねる「自転車で来た男」(二一四・上6)は、この新しい区役所を探していることになるだろう。戦災後、少しずつ街が復興する様が理解できる。
  2. 「この辺がいいって聞いた」「一軒きりしか商売がなくて」という言葉から、どのような様子を表現しているか考える。
    「この辺がいいって聞いた」(二一五・上2~3)からは、比較的戦災被害の少ない葛飾であれば茶が売れるだろうという情報を、りよが人づてに聞いたことがわかる。そうした点から、葛飾区役所の場所同様、りよがこの土地に慣れていない様子がうかがえる。加えて、そのような土地であっても「一軒きりしか商売がない」(二一五・上4)、つまり茶が売れない点からも、りよが苦労しながら行商をしている様を理解させる。
  3. りよの話を聞く「男」(鶴石)の様子から、「男」の人柄を考える。
    「男」はりよを「商売ってものは、その日の運不運」「またいい商売もあるかも」(二一五・上7~9)と励ましたり、「若いもンの家じゃあ、なかなか骨だろう」(二一五・下6~7)と労わったり、りよの商売を気にかけている。また、「男」が譲った腰掛を使わず遠慮しているりよに再度使うよう促す様や、りよが、湯が沸くやかんに茶を入れたことへの礼のように、自分の昼食用に焼いた鮭を「半分手でむしって、りよの飯の上に差し出」(二一六・上11~12)す様など、「男」の優しさ・あたたかさが示されている点を理解させる。
  4. りよの「主人はシベリアにいる」という言葉から、りよの境遇を考える。
    「男」から夫について聞かれた際、りよは「主人はシベリアにいる」(二一六・上13)と答えている。注14の通り、シベリアは日本軍捕虜が労働力として留め置かれた場所で、鉄道建設等過酷な労働に従事させられた。りよが東京で行商をする背景に、戦争から(抑留先のシベリアから)未だ戻らない夫の存在があることを理解させる。
〈第二段〉(二一六・上19~二一九・上1)
  1. 夫を待つりよの心情を理解し、りよと周囲との距離について時代状況を踏まえて理解する。
    二一六~二一七頁では、りよが夫について思いを巡らせていることを把握させる。「バイカルのスウチン」から便りが届いた後も、夫は戻らない。「毎朝眼が覚めて気が滅入ることも習慣」(二一六・上20~21)、「実感のないということにもいまでは慣れてきていた」(二一六・下2)と、シベリアで夫が捕虜になっていることは理解できても、その実感がないまま、年月だけが過ぎている。少しずつ〈戦後〉を実感する周囲とは異なり「自分の周囲にだけは、まだ、戦争気分が残っているように思えた」(二一六・下5~6)、「平和な色あいから取り残されている」(二一六・下7)というように、いまだ戻らない夫を待つりよにとって、「戦争」は続いている。
  2. りよの「六年間」と「いまでは、誰も戦争の事は言わなくなり」を比較する。
    りよと周囲の距離が示されており、夫が出征してから六年経っていること、その間、りよには「幸福」(二一六・下16)な時など無いこと、一方で「いまでは、誰も戦争の事は言わなくな」ったこと(二一六・下17~18)が対照的に示されている点に注目させたい。
  3. りよの夫がシベリアにいることを知った「男」の気遣いと、「男」が夫と同じシベリアにいたと知ったりよの思いを理解する。
    「男」はりよの夫がシベリアにいると知って「自分もシベリアからの引き揚げ」「旦那もそりゃア大変だが、待ってるお前さんも大変なこと」(二一七・上3~6)と気遣う。シベリア抑留を話しても、「使いに行ったものが戻らないような気軽な同情しか」(二一六・下19~20)寄せない周囲の人々とは異なり、「男」が夫とりよを気遣っていること、りよもまた、自らの境遇からこうした「男」を身近に感じ、気安く話しかける点を理解させる。
  4. りよの茶を買う「男」の言動から、その人柄を考える。
    二一九頁の脚問にあるように、「男」が「二百匁」買おうとすると、りよは「差しあげます」(二一八・上7)と言うが、「男」は「商売は商売だね」(二一八・上8)と答えた点に注目し、「男」が恩を着せるような人物ではないこと、りよの仕事を理解する人物であることを読み取らせる。
  5. りよと鶴石の交流、りよが東京の街と人々を理解し、行商する様を把握する。
    鶴石(「男」)と出会ってから、りよは「鶴石のところへ寄れる愉しみ」(二一八・下3〜4)を感じ、鶴石も来訪を喜び、りよの息子・留吉を可愛がった。りよの中で鶴石に対する思いに変化があらわれ、行商にも、「茶を買ってくれるなじみもでき」(二一八・下4~5)、「商売にも身を入れて歩くようになった」(二一八・下19)とあるように、東京の街や人々を少しずつ理解していく様が描かれ、僅かであっても明るさが見える点に注目させる。
〈第三段〉(二一九・上2~二二二・上9)
  1. 「まだ浅草を見たことがない」という言葉から、りよの思う「浅草」を考える。
    「まだ浅草を見たことがない」(二一九・上3)と、りよが言う「浅草」とは、東京大空襲等の戦災によって甚大な被害を受けた浅草ではなく、歓楽街・遊興街として栄えた戦争前の浅草であることを理解させる。
  2. 浅草を訪れたりよの目に、浅草という街がどのように映っているか、その表現をまとめる。(二二八ページ「言語活動2」と連動して考える)主態
    鶴石と上野駅で待ち合わせた後、二一九~二二一ページは、りよと鶴石、留吉が訪れた戦災後の浅草が描かれている。浅草および都内の被災状況については、「戰災燒失區域表示帝都近傍圖」(日本地図株式会社、昭二十一)https://lapis.nichibun.ac.jp/chizu/map_detail.php?id=001815885(国際日本文化センター、令四年八月十二日最終確認)を用いて当時の状況を確認し、理解させる。同じくこの地図で葛飾も確認し、他に比較して被害の少なかった街であることを理解させる。ここで、りよは「浅草というところは、案外なきたいはずれな気がした」(二一九・下10)と思い、「小さい御堂」の中の「あの有名な浅草の観音様」(二一九・下11)を見て、「公園の広場の焼け跡の樹木」(二二〇・上5)、「食物屋のバラック」(二二〇・上8)に視線を移し、食糧不足で食事の提供が出来ないため持ち込み可能な「喫茶店」(二二〇・上19〜20)に入る。これらは戦災直後の浅草を表わしたもので、そうした浅草をりよは「物哀し」(二二〇・上4)く、「寒々し」(二二〇・上21)いと捉えている点に注目させる。なお、鶴石が説明した「昔は見上げるように巨きいがらん」(二一九・下12)は、東京大空襲で焼失しており、りよの見た「小さい御堂」はその後のものである。
  3. 自分の気持ちを「ぜいたくかしらね」と言いながらも話すりよと鶴石の気持ちの重なりを理解する。
    雨がひどくなる中、このまま帰るのではなく「しみじみと落ちつく」(二二〇・下14)ために「遠慮しないで、自分の家のこと」(二二〇・下21)を鶴石に話すりよの気持ちと、「同じようなことを考えていたと見え」(二二一・上4)る鶴石の気持ちの重なりを理解させる。互いに住む場所はあっても、そこは落ち着いた家ではないという点を説明する。
  4. りよの「幸福」や「孤独」について考え、鶴石の気持ちを理解する。
    りよは夫が出征してから「飛び立つ思いの幸福は一度もなかった」(二一六・下15~16)と思っていた。しかし、旅館の「座蒲団を留吉の枕に」(二二一・下2)してやったり、雨で濡れたりよの髪を自分のハンカチで拭いてくれる、ごく自然な鶴石の振る舞いに触れたりよが「長い間の閉じこめられた人間の孤独」の隙間から「眇めるような幸福な思い」や「愉し」さ(二二一・下7~9)を感じている点に注目したい。また、互いの年齢を尋ね合い、鶴石が「眼もとをちらと染めるように輝かせ」(二二二・上8)るなど、二人の気持ちが徐々に近づいていることを理解させる。
〈第四段〉(二二二・上11~二二四・上8)
  1. それまでとは異なるりよの気持ちを理解する。
    先ほどまで幸福な気持ちで過ごしていたりよであったが、「胸さわぎがして、良人に済まないような気がしている」(二二二・上19~20)こと、夫ではない男性(鶴石)と同じ部屋に泊まることに対して「雨が降るから、仕方なくこんな風になったと思いたかった」(二二二・上21~下1)と考え、自分の揺れ動く気持ちに何とか対処しようとしている点を説明する。
  2. 宿屋の同じ部屋で一夜を過ごすりよと鶴石の逡巡を、それぞれの境遇や時代性をふまえて整理する。
    りよと鶴石の境遇や時代背景を確認しながら、揺れ動く二人の気持ちを理解させる。留吉と二人、未だ戻らない夫を待つ妻であるりよは鶴石を一度は断るも、鶴石の話を聞きながら、りよは「一緒に抱きあってみたい気が」(二二三・上1~2)した。しかし、それを実行すれば出征した夫を待たずに別の男性と関係を持った鶴石の妻と同じになるし、鶴石もまた、自分が出征中に妻と関係を持った別の男性と同じ立場になる。こうした二人の境遇を振り返りつつ、二人の孤独は「戦争」(二二三・上5)が生み出したものであること、そして孤独な二人が心を寄せ合いながらも躊躇い、葛藤を繰り返しつつ心を通わせていく様に注目したい。
〈第五段〉(二二四・上9~二二六・上8)
  1. 鶴石の死は、りよの心境にどのような影響を与えたか考える。
    宿屋に泊まってから二日後、りよは鶴石が大宮からの帰途、乗っていたトラックが河へ落下し亡くなったことを知る。鶴石の死を知ったりよに対して「呆んやり」という表現が二度(二二四・下6、二二四・下15)使われているところに注目し、鶴石の死がりよに与えた影響の大きさや空白がりよの心に生まれていることを理解させる。また、鶴石が住んでいた小舎の中は「少しも変わって」(二二四・下16)おらず、黒板に書かれた「リヨどの、二時まで待った」(二二四・下17)からも、いつもと同じように鶴石がりよを待っていたことを理解させる。
  2. りよの喪失感と孤独を理解する。
    鶴石の死を知った後のりよは、「どこへ行くあて」もなく、「バラックの家々を眺めて、家のある人たちが羨ましかった」(二二五・下8~10)と、喪失感と孤独を抱えながら隅田川の河べりを歩く。孤独だったりよは、ほんの一時であれ、鶴石と交流することで温かな時間を持つことが出来たが、鶴石の死によって再び孤独のなかに留め置かれたことを理解させる。また、りよにとって行商という仕事は、そうした孤独や淋しさを埋めるものとなっていることも説明する。
〈第六段〉(二二六・上9~二二七・下12)
  1. 鶴石の死を知った直後の孤独感とは異なるりよの心の変化を捉える。
    鶴石の死後、りよは鶴石と関係を持ったことを悩んだが、周囲が戦争から少しずつ日々の生活を取り戻すなか、敗戦後もなお戦争の只中に置かれるりよに温かな時間を与えてくれた「鶴石を知ったことを悪いといった気は少しもなかった」(二二七・上8~9)と肯定的にとらえていることを理解させる。
  2. りよが足袋の芯縫いの内職をする女たちにどのような思いを抱いたのかりよの境遇をふまえて考える。
    りよの茶を買ってくれた女たちもまた、戦後の東京の街で懸命に生きる女である。どのような事情を抱えた女たちはわからないが、「せっせと足袋底を縫」う(二二七・下11~12)姿は、一心に行商して歩くりよの姿と重なり合い、りよは女たちを「自分と同じような」(二二七・下11)という親しみや共感、連帯を込めた視線で見つめていることを理解させる。
まとめと発展
  1. 言語活動への発展をはかり、当時の社会状況や他の資料(脚本)を批評する視点を身につけさせる。
  1. 言語活動1に取り組む。主態
    ※言語活動2については、「指導計画案」第三段②に示した。
    戦災直後の衣食住について、まず「衣」については鶴石の「ゆきたけのつまった灰色の古ぼけた背広」(二一九・上10~11)、りよの「着物地でつくったワンピース」(二一九・上12)から、物資不足ゆえに寸法に合わないものを身につけたり着物を仕立て直すなどの当時の事情を理解させる。鶴石の仕事用と思われる「穴だらけのゴム長」(二一五・上2)も同様である。「食」については、りよの弁当が「まっくろい麦飯に、頬刺しの焼いたのが二尾と、味噌漬け」(二一五・下7~8)で、鶴石も鮭以外は「薯飯」(二一五・下13)である点に注目させ、「麦飯」「薯飯」は、米不足を補う代用食であることを当時の新聞や年表、事典等を利用して理解させたい。また、喫茶店で紅茶だけ頼み食料を持ち込むという点も店側に提供できる食事がないことを示すものである。「住」については「バラックの家々」(二二五・下9)の「バラック」が二二一頁の注35で「粗末な仮小屋」と説明されている点から戦災によって多くの人が家を失ったことを理解させた上で、実際の写真を見せるなどして理解を深めたい。「小舎」(二一八・上12)と書かれる鶴石の住まいからも当時の住居の有様を理解させたい。
  2. 言語活動3に取り組む。主態
    「下町」は昭和三十二年に映画化され(東宝、監督・千葉泰樹、脚本・笠原良三、吉田精弥)、りよを山田五十鈴、鶴石を三船敏郎が演じた。映画「下町」の脚本は「映画評論」(昭三十二・九)に掲載されている。この脚本が小説「下町」のどのような点に注目し、どのような工夫をしているか生徒たちと共に考えたい。小説「下町」では、鶴石の住む「小舎」に山田五十鈴の「エハガキ」が貼られていて、その山田が映画では行商で生計を立てるりよを演じている点も興味深いが、たとえば、小説「下町」が、りよと鶴石という孤独な二人の交流を中心に描いたのに対し、脚本では、りよが上京し身を寄せている「きく」(りよの幼馴染)の家や、その家で働く玉枝とりよの交流も描かれており、戦後の東京を生き抜く女性たちが色濃く描かれている。小説「下町」では内職する女たちにりよが親しみや共感、連帯を感じているが、脚本ではそうした女たちは描かれず、代わりに玉枝の存在が重視されている。玉枝は、きくの家の一部屋を借りて売春をすることで療養所で寝たきりの夫を支えている。きくもまた、鰊の買付けなどで一山当てようとする夫・善助に悩まされている。結果、きくの家での売春営業が警察の取り締まりにあい、玉枝も夫が死去したため故郷に戻っていった。その後、りよは鶴石の死を知り、茫然とするものの、留吉の唄う「異国の丘」(シベリア抑留をうたう歌)によって現実に引き戻され、鶴石の死を悲しむりよが描かれたところで物語は終わる。小説「下町」末尾に描かれた、りよと内職する女たちの共感や連帯が描かれない分、玉枝や鶴石のいない東京で、孤独の只中に置かれるりよが最後に描かれているといえよう。

歩道橋の魔術師呉明益/天野健太郎訳

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 台湾の場所と歴史を簡単に把握させる。
  1. 台湾の場所や歴史を調べる。主態
    台湾は日清戦争後の下関条約で日本の植民地となり、日本語教育が行われていた。戦後、中国大陸から国民党がやってきて接収し、現在でも「中華民国」を標榜している。作品の舞台は一九八〇年代初頭で、まだ戒厳令が敷かれていた。
展開
  1. 「ぼく」の子供のころの感性を読み取らせる
  2. 魔術師と「ぼく」のやりとりを読み取らせる。
  3. この作品における「魔術」とは何かを考えさせる。
初め~二三〇下・5〈楽しみになってきた〉
  1. 物語の舞台を確認する。知技
    舞台となる中華商場を地図で確認し、日本人にとってなじみのない単語や概念などにも注意を払う。
二三〇・7〈ぼくの真向かいで〉~二三四・10〈どの口が言うか!〉
  1. 魔術師が「ぼく」の目からどのように書かれているか整理する。
    魔術師は不気味で神秘的な存在のように書かれている。
  2. マジック道具を買ってしまう「ぼく」の心情を読む。
    「ぼく」は子供ながらに、商魂たくましく商品を売りつけようと考えているが、魔術師の魔術にかかったかのように、道具を買ってしまう。
  3. マジックのタネが明かされるとはどのようなことかを考える。
    マジックのタネが明かされることは、「大人になる前に、その後の人生のすべてが予告されてしまったようなものだ」とある。この小説では、「ぼく」のその後の人生が、「タネの明かされていないマジック」のメタファーにもなっている点に留意させておきたい。
二三四・12〈魔術師の商売が流行らなく〉~二三九・8〈とっても深い場所なんだ……〉
  1. 黒い小人に対して、「ぼく」が夢想することを読み解く。
    「ぼく」は、黒い小人が生きているかのように想像している。子供らしい発想であろう。雨にぬらしてしまったときには、自分が殺したと思ってしまってもいる。
  2. 魔術師と「ぼく」のやりとりと心情の展開を読む。
    店番を任されて喜んでいるが、雨で小人をだめにしてしまい、落ち込む。「ぼく」目線では魔術師も怒っていると思っているが、実際にはそうでもないようである。
    黒い小人に魅せられた「ぼく」は、是が非でもそのマジックを自分のものにしたいと考える。だが、魔術師は本当に魔術を使えるようでもあり、怪しくもある。不安が夢になって現れる。
二三四・10〈ぼくは魔術師に〉~終わり
  1. 「本当のマジック」とは何か考える。
    「本当のマジック」とは、「タネのない魔術」のことのようにも思われるが、チョウを捕まえて標本にすると、それはもうチョウと言っているので、「タネのわからないマジック」と考えられるが、魔術師はあえて神秘的な言い方をしている。「タネのわからないマジック」と名指した瞬間に、「チョウの標本」のようになってしまう。
  2. 最後の段落の目の描写について考察する。
    魔術師の目は一貫して神秘的なものとして描写されている。最後の段落でも、一見すると本物の魔術を使っているかのように見える。タネを明かせば義眼であるが、そう指摘した瞬間、やはり「本当のマジック」ではなくなる。
まとめと発展
  1. 全体を振り返り、物語の構成の仕方や文章の書き方を検討させる。
  1. この物語全体から考えて、「マジック」の持つ意味を考える。思判表
    「ぼく」から見る魔術師は神秘的に書かれているし、魔術師の言動もまた神秘的であるが、それも大人の目線で考えると現実的で普通のものになる。最後の段落をはじめとして、文章全体が「マジック」になっており、裏にはタネがあるが、表面的には不思議になっている。また、少年の「ぼく」の将来も「タネの明かされていないマジック」と読むことができるなど、仕掛けの多い作品である。
  2. 大人になってからの「ぼく」の回顧的な目線と、子供のころの「ぼく」の感性が統合されている点にも留意したい。

都市は/を語る石田英敬

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 本文のキーワードを挙げさせる。
  2. 論の構成を考えさせる。
  1. 本文のテーマを共有する。
    本文は、生徒にとってはじめは少々難解に感じられるかもしれない。まずは意味が掴めないなりに読んでみて、繰り返される語や印象的なフレーズなどを挙げさせつつ、全体のテーマが何か、どういったことについて考えている文章なのかを考えさせる。
  2. 段落分けの根拠を考えながら全体の展開を捉える。
    二四七ページに一行空きがあるため、大きく二つのパートに分かれることは明白である。ここではより細やかに、書かれていることの内容にしたがって段落分けができるかを検討させる。
展開
  1. 抽象的な語句が多用される文章を、場合によっては一文ごとに具体的に言い直しをさせることなどにより、文意を確認させる。
  2. 都市論と記号論とがバルトにおいてどのように重ねられているかを理解させる。
  3. 読者のイメージが都市論にいかに援用されているかを理解させる。
  4. クノーの詩集『百兆の詩』が従来の読書行為とどのように異なるのかを理解させる。
  5. リンチが試みたことを把握させる。
  6. 都市のイメージを形成する「形式」について正しく理解させる。
  7. リンチの分析方法における「意味づけ」のレヴェルを正しく理解させる。
〈第一段〉(初め~二四四・11)
  1. 難解な語句を調べ、意味を確認する。知技
    脚注やその他の辞書などを踏まえつつ、一文ごとに分かりやすく言い換えることができるかを試してみてもよい。この作業は第五段まで適宜行ってもよいだろう。
  2. 都市と記号の共通点を整理する。
    「都市の言説は「一個の言語活動だ」」(二四四・9)という言い方について、どういうことか説明できるようにさせる。
〈第二段〉(二四五・1~二四六・7)
  1. 「一種の読者なのです」(二四五・9)とバルトが述べる理由を理解する。
    必要に応じて「参考」に挙げた「ノートルダム・ド・パリ」の本文を読み、バルトや筆者が言わんとしたところをより具体的にイメージできるようにしてもよい。
  2. 「前衛的な読者」(二四五・12)の意味を理解する。
    あらためて「前衛的」という語句の意味を調べなおし、そのうえで本文の文脈を考えさせることも有効だろう。
〈第三段〉(二四六・8~二四七・10)
  1. 「都市を語る」と「都市は語る」のそれぞれが、どのようなことを指しているのかを把握する。
    評論の読解において、抽象的な表現を、具体性を伴った形で言い換えられるかどうかが、生徒の理解をはかる点で重要になる。同じことは教師においても言えよう。
  2. 「都市の中を移動する者」と「読者」との関係を理解する。
    ここでクノー『百兆の詩』の読書行為について考えてみると、理解が進む。あるいは、バルト「作者の死」を紹介してもよい。
〈第四段〉(二四七・11~二四九・3)
  1. リンチとバルトの関係について確認する。
    評論ではしばしば先行論が参照、引用されるが、各論の関係性を適切に把握することが理解への第一歩となる。ここでは、バルトがリンチを「手がかりにした」(二四八・4)、すなわち、あくまでリンチが先にあること、しかしながら本文では前後関係が逆転しているように見えることに注意を促したい。
  2. リンチの試みやその意図を理解する。
    少ない文字数でまとめさせると、記述や要約の練習になる。
〈第五段〉(二四九・4~終わり)
  1. リンチが想定した三つのレヴェルを整理、理解する。
    「1同定性」、「2構造」、「3意味作用」それぞれの内容と、各項目の関係や階層性を理解させる。
  2. 都市のイメージ分析における「形式」を考える。思判表
    「①」と「②」とが、それぞれ具体的にどのような事柄を見出そうとするものなのかを理解させる。
  3. 都市のイメージ分析における「意味づけ」を考える。思判表
    「③」が「①」・「②」とどのような関係を結んでいるのかを理解させる。また、「③」こそが言語活動と重なる部分である、という本文の結論への理解を促す。
まとめと発展
  1. 全体のまとめをして、あらためて主題について考えさせる。
  2. 文学作品で描写されている都市空間についてもどのような「意味づけ」がなされているのかを考えさせる。
  1. 本文の趣旨について考える。
    言語活動と都市活動とが、「意味」の生起のプロセスという観点から結び合わされていることを理解させる。
  2. この単元で取り上げた小説作品を振り返りつつ、読書指導、表現指導への発展をはかる。主態
    文学作品も「形式」と「意味づけ」のそれぞれの位相から捉え、理解することができる。そのことを、具体的な作品において考えてみる。作品内部に表れる様々な記号的要素は、要素それ自体だけでは意味を発生しないかもしれない。しかし、他の要素と結びつくことによって豊かな意味を生み出すのであり、生徒にもそのことを気付かせたい。

自然を見る、自己を見る

流れる髪
羨望
独楽
韜晦
高度
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
流れる髪永瀬清子
導入
  1. 作者の来歴と詩の特徴を理解させる。
  2. 短章の読解に必要な語句の意味を確認させる。
  3. 本文を朗読し、概要をつかませる。
  1. 教科書の作者紹介のほか、短章について教師から補足説明を受ける。
    ④「作者」を参照して、永瀬清子が自作の一部を「短章」と名づけ書きつづけてきたこと、短章には、詩だけでなく、詩論やアフォリズムといったさまざまな形式の文章が含まれていること、作者が、短章の原型を自身の詩精神と切り離されるべきものではなく、詩人として書き連ねた作品だと述べていたことを紹介する。
  2. 脚注の語句説明を確認し、「注意する語句」の意味を調べる。
    朗読のあとで、「また」「雨」「言葉」で描写されている自然を挙げさせる。「私をとりまく人が」では、周囲の人々に理解されないものの、「私」が自分の詩を大事に思い、自負を持っていることを確認させる。
  3. 朗読する。知技
展開
  1. 「また」「言葉」の自然描写が何を表しているのかをつかませる。
  2. 「私をとりまく人が」における「私」と「私をとりまく人」の詩作に対する考えや態度の違いを整理、理解させる。
  3. 「雨」の風景の比喩を解釈させる。
  4. 四つの短章に共通する詩題をつかませる。
「展開」以降の学習活動は、クラスをグループに分けたうえで、それぞれの短章における比喩の効果や詩題について、グループディスカッションをとおして検討させることができる。
  1. 「また」の「トゲトゲの多い小さい草の実」、「言葉」の海洋生物の比喩が何を表しているかを考える。
    「雨」の雨粒の比喩を解釈することが難しいので、まずは「また」「言葉」の自然描写を考察させて道筋を作る。
  2. 「私をとりまく人が」の登場人物を挙げて、「私」の詩についてのそれぞれの思いや態度を整理する。
    詩を書かない人と「詩を書く友人」それぞれが、「私」の詩を誤解しているのに理解しているふりをしている点に「私」は不満を抱いている。詩は「私」が「私自身」でいるために不可欠な存在であり、「私」には自分の詩作に対して強い自負がある。しかし、自分自身も彼らを誤解している可能性があるから、「私」は彼らを非難しない。他者と完全にわかりあえることはないのだという認識をもって相手の場を踏み荒らさないようにすることで、他者と決別せず、詩を書きつづける場も守られる。「私」の詩作への自負と他者へのあたたかさを読みとらせる。
  3. 「雨」の雨粒の比喩が何を表しているかを中心に解釈する。
    「雨」の比喩が何を指すかについて、解釈の糸口を徐々に示しながら考えさせる。他の三つの短章がいずれも詩語の性質や詩語が生まれる契機を描いていること、雨粒が「私の中の心臓」、すなわち精神のように、生き生きと拍動しているという点から、詩語の比喩であることに気づかせる。
  4. 四つの短章全体を通して、「私」が表現したいことをまとめる。
    「また」「雨」「私をとりまく人が」「言葉」全体を通して、四つの短章に通底する詩題を見出させる。詩語とはいかなる特徴を持つ言葉か、「私」は詩語をいかにして形づくるのか、という詩題を引き出す。
まとめと発展
  1. 「短章」とは何かを考えさることで、「詩人の仕事」に対する捉え方を広げる。
  1. 「ここに集めたものを~」以降を読んで、「私」の短章に対する意味づけを考える。思判表
    短章が、「詩そのもの」「散文詩」「散文」のいずれにも完全には一致しない、詩作の間の日常的時間のなかで生まれた言葉である点を理解させる。詩人は、詩や詩を書く過程それ自体について考えた成果をも作品にしうることを知り、「詩人の仕事」として、さまざまな表現がありうることを知らせたい。
羨望伊東静雄
導入
  1. 題名の意味を理解させる。
  2. 伊東静雄という詩人とその詩的世界の特質について理解させる。
  1. 題名に注目し、誰の誰に対する「羨望」かを確認する。
    「羨望」という熟語の意味を確認させつつ、それが詩の最後の「そして 訳のわからぬうらやましい心持で/この若い友の顔をながめた」に直接関わるものであることを理解させる。
  2. 詩の意味を理解しながら朗読する。
    全体を朗読することを通じて、「わたし」と「年少の友人」のあいだに温かな関係性が感じ取れることを確認させる。
  3. 「筆者」の項を読み、伊東静雄という詩人とその詩的世界についての知識を得る。知技
    伊東静雄が中学教師をしていたこと、この詩に登場する「年少の友人」が詩人の実際の教え子であり、実際に詩に書かれているようなエピソードがあったらしいことを、「作者を解くカギ」を参照しながら、生徒に情報提供するのもよい。
展開
  1. 詩の構成について理解させる。
  2. キーワードを含む重要なことばの意味を確認させながら、詩の流れを把握させる。
  1. 詩編を四つに分ける。
    詩編が起承転結の展開になっていることを理解させ、それぞれの部分がどういう内容となっているかを理解させる。
  2. 「年少の友人」の人物像について皆で話し合う。
    「年少の友人」の人物像をうかがい知ることができる詩のことばや彼の言動を生徒に指摘させ、彼がどういうキャラクターかを皆で話し合わせる。
  3. 「わたし」の「所詮日本の詩人にはなれまいよ」という揶揄いの意味を理解する。
    まず、「わたし」の揶揄いが、「年少の友人」に対する親しみの感情に基づくものであることを確認する。その上で、「所詮日本の詩人にはなれまいよ」という発言の趣意を理解させる。「わたし」は「蟬の声がやかましいやうでは/所詮日本の詩人にはなれまいよ」と言っているが、逆に言えば、蟬の声にやかましさを感じない感性が伝統的な「日本の詩人」の感性なのだと考えているということである。では、そのような感性が表現された日本の伝統的な(広義の)詩にはどのようなものがあるか。そこで芭蕉の「閑さや」の句を生徒に例示するとよいだろう。
  4. 「一種の感じ」とはどういう感じかを理解する。
    「一種の感じ」とは、「年少の友人」のしみじみとした述懐から彼の実感が伝わってきたということである。だからこそその後で「わたし」は、彼の蝉に感じたいたたまれなさに対して「不思議なほど素直に」同意するのである。「年少の友人」の素直な実感に「わたし」の素直な実感が呼応するという展開を理解させたい。
まとめと発展
  1. 主題を理解させる。
  2. 詩の世界を拡げさせる。
  1. 「年少の友人」が蝉の声に感じた「迚も耐らないもの」とは一体どのようなものか、皆で意見を出し合う。思判表
    「わたし」が「年少の友人」の述懐のあとに「――それは 迚も耐らないものだつたらう」と「しんからさう思へて」きたのは、「年少の友人」が蟬の声に感じたいたたまれなさの内実を「わたし」が理解し共感したからに他ならない。ただ、このいたたまれなさの内実について詩の中でははっきり説明されていないため、さまざまな解釈が可能である。それ故、生徒に自由に発言させ、多様な解釈を議論の俎上に載せるのがよいだろう。その際、長い期間地中に生活し、成虫としての地上の生の時間は非常に短いという蝉の生態について確認しながら、やかましいほどの蟬の声に「年少の友人」が何を感受したのかを想像させるのがよいと思われる。
  2. 「わたし」が感じた「訳のわからぬうらやましい心持」とはどういう心持か、また、そういう心持になったのはなぜかを皆で話し合う。
    「わたし」が「年少の友人」に対して羨望を感じるに至ったのは、「年少の友人」が「わたし」にはなし得ないかたちで蟬の声に敏感に感応していたことがわかったからである。①において議論したことを踏まえつつ、「年少の友人」の若々しい感受性が蝉の声のどこに反応していたのかを考えさせながら、すでに若くはない「わたし」が何に対して羨望を感じていたのかを浮かび上がらせるとよいだろう。
  3. 伊東静雄の他の蝉をモチーフとした詩を読み、「羨望」と通底する気分や相違などがあるかを皆で話し合う。主態
    伊東静雄は、昭和十六年、「羨望」の他に蟬をモチーフとする詩を他に二篇書いている。「参考」に載せた「七月二日・初蟬」と「庭の蟬」がそれであるが、ここにも蟬の声をめぐるいわく言い難い感覚のゆらぎがテーマとして立ち現れている。これらの詩と「羨望」とを読み合わせることで、「羨望」の読みを深めることができるか。生徒に自由に意見を出させて、「羨望」理解を深めさせるのみならず、伊東静雄の詩的世界に対する理解を広げさせたい。
独楽高野喜久雄
導入
  1. 朗読を通して、詩編の全体像と音の特徴をつかませる。
  2. 作者の来歴と詩の特徴を理解させる。
  1. 詩編を朗読する。
    朗読後、詩編の音の印象を問う。「お前」「如何なる」の繰り返しや、「そして・それによって・そのあり余る」というソ系の音の反復に気づいたり、度重なる改行と一文字分の空白によって朗読の流れが寸断されるという印象を持つことが予想される。生徒の応答を記録しておき、「まとめと発展」における内容と表現の比較につなげたい。
  2. 作者の来歴と詩の特徴を把握する。知技
    高野喜久雄が事物を凝視し、その特徴や性質を比喩として用いることで、生の意味や目的を問うてきた点をつかませる。
展開
  1. 第一連の独楽の状態と動態を理解させる。
  2. 第一連の独楽の状態・動態と対比して、第二連「vieを追い越した」とは何を意味するかを考えさせる。
  3. 第二連末尾「そして…耐えていることか」を解釈させる。
  4. 「深い学びのために」の「学習のポイント」に取り組ませる。
  1. 「慈愛」や「孤独」が何を指すかを考えたうえで、独楽が「立ちつくすことが出来ぬ」とはどのような状態かを考える。その状態と対比して、独楽が「立つ」「回っている」という動態が何を表しているかを捉える。
    人の内面が、他者から慈愛を受けても、孤独のなかにあっても生気を失い、停滞している状態と、自己の生についてあてどなくぐるぐると考えつづける動態との対比に気づかせる。
  2. 「vie」(一生・生涯・人生)の意味をおさえたうえで、独楽がそれを「追い越した」とはいかなる事態かを解釈する。
    独楽の動態が回転運動から「追い越す」という前進運動に変化したことに注意させる。いまだに自己の生を捉えられてはいないものの、思考が自分の生の枠組みを超えるという非現実的、脱秩序的力が示されている点に気づかせる。
  3. 「無聊」の意味を確認したうえで、「それ」「その」「誰」の指示内容を明確化して、詩編末尾を解釈する。
    独楽の傍らにいる「誰」という他者の存在に気づかせ、独楽との関係性を探らせる。
  4. 「お前が立つ」ことと「お前のvie」とはどのような関係にあるかを考える。思判表
    「⑬深い学びのために」の解答例を参照。
まとめと発展
  1. 再度、朗読させる。独楽の動きと詩編の音や語りの特徴を比較させる。
  2. 語り手の独楽に対する態度や、語り手の現在の状態を推測させる。
  1. 「如何なる」・「お前」・ソ系の語の反復の意味を考える。
    独楽の回転運動に擬えるかたちで、語りが反復している点に着目させる。
  2. 改行、一文字あけによる読みの流れの寸断、文法の乱れに着目する。
    度重なる改行、一文字あけ、文法の乱れによって、語りが滑らかに運んでいない点に気づかせたうえで、その効果を考えさせる。読みにくい箇所や規範的言語使用の観点から誤りとされる語法も分析対象となることを知らせ、詩の内容と表現とを比較する視点を身につけさせたい。
韜晦多田智満子
導入
  1. 題名の意味を理解させる。
  2. 多田智満子という詩人とその詩的世界の特質について理解させる。
  1. 題名に注目し、「韜晦」の語義を確認する。
    「韜晦」という熟語の意味を確認した後、最後の文の主語がその直前の文の主語の「山たち」であることを確認しつつ、「韜晦」という題名が、第一義的には、山々が自分以外のものに何がしかを見えなくさせたということを指していることを理解させる。
  2. 詩の意味を理解しながら朗読する。
    全体を朗読することを通じて、意味を捉えさせるのみならず、数度現れる反復表現により文体にリズムが生まれていることを体感させる。
  3. 「筆者」の項を読み、多田智満子という詩人とその詩的世界についての知識を得る。知技
    多田智満子の作品世界が、該博な教養に裏打ちされた、知的に彫琢されたものであることを伝え、事物・事象の観照がその詩的世界を貫くものであることを理解させる。その際、「鏡のテオーリア」という評論を詩人が書いていることを紹介し、 「テオーリア」theōria が、「事物を見て真理を理性的に知ろうとすること」の謂いであることを説明しつつ、多田がものを見ること・眺めることに極めて意識的な詩人であったことを理解させる。
展開
  1. 詩の構成について理解させる。
  2. 重要なことばの意味を確認させながら、詩の流れを把握させる。
  1. 詩編を四つに分ける。
    詩編が起承転結の展開になっていることを理解させ、それぞれの部分がどういう内容となっているかを把握させる。その際、「導入」での朗読を通して確認した反復表現に関して、それが文体にリズムを与えるということ以外の効果・意味を持っているということについても解説する。(詳しくは「板書例」を参照のこと。)
  2. 「不動の運動」とはどういうことかを理解する。
    山々の稜線の不動性と運動性について、その意味を把握させる必要があるわけだが、見る側のまなざしの動きの有無がそれに関係していることを理解できるかどうかがポイントである。また、「不動の運動」という表現が、典型的な撞着語法(オクシモロン)であることにも触れつつ、撞着語法について具体例(例えば、「小さな巨人」など)を示しながら解説を加えておくとよいだろう。
  3. 「山たちは人のまねをするのが上手だ」とはどういうことかを理解する。
    「山たちは人のまねをするのが上手だ」の文のあとに、具体例が三つ続いていることを示し、山々の「人のまね」の内実が、山を見ている人の喜怒哀楽の感情を反映しているかのように山々が見えるようになることだということを理解させる。その際、「山が人の喜怒哀楽の感情を模倣すること」という説明にならないように注意。あくまで「山が人の喜怒哀楽の感情を模倣しているように見えること」というかたちで、山を見ている側のまなざしの問題であることをきちんと理解させることがポイントである。
まとめと発展
  1. キーワードについての知識・情報を共有させる
  2. 主題を理解させる。
  1. 「古い日本画の夢想」とは一体どのようなものか、皆で意見を出し合う。
    「(山たちは)古い日本画の夢想のなかに、うまく韜晦してしまった」という最後の一文についての理解が、そのまま主題の理解とつながるわけだが、順を追って理解を積み上げてゆく必要がある。まず、「古い日本画の夢想」とは一体どのようなものがイメージされているかを捉えなければならない。恐らく「日本画」という概念の成立事情を十全に把握している生徒はほとんどいないと思われるので、「日本画」が西洋画との対立概念として生まれてきたという歴史的なコンテクストを簡単に解説し、西洋画と区別される「日本画」の特徴を解説する必要がある。その際、「日本画」が西洋画のように幾何学的遠近法(一点透視図法)で描かれているわけではなく、陰影のない平面的な描出となることを理解させることが大事である。また、ただの「日本画」ではなくわざわざ「古い日本画」とされていることから、詩人が念頭に置いているのが、平安時代の大和絵や鎌倉・室町時代の水墨画などであろうことも説明し、大和絵、水墨画がどんなものであるか、それぞれ生徒に例示しながら、「古い日本画の夢想」についてそれぞれの考えるイメージについてことばで表現させるとよいだろう。
  2. 「古い日本画の夢想」と「うまく韜晦」することを結ぶ論理的なつながりについて考える。思判表
    前項の①の学習活動の中で確認した「古い日本画の夢想」のイメージ、即ち、世界が平面化された夢幻的なイメージであるという理解を踏まえて、ではなぜそれが山々の「韜晦」につながってゆくのかを考えさせることがポイントである。山々が「わたし」の目から隠したものは、その「表情」の意味であった。この「表情」の意味というものが、「展開」の③で確認したように、喜怒哀楽のこと、即ち内面の深み・奥行きのことであったことを踏まえれば、どのようにして山々が「古い日本画の夢想のなかに、うまく韜晦してしまった」のかが得心できよう。つまり、山々が内面の深み・奥行きをなくして平面的なものになり、「わたし」に山々の「表情」のありようが捉えられなくなってしまったという状態が、「古い日本画の夢想のなかに、うまく韜晦してしまった」という表現で表現されているのである。この理路を丁寧に理解させることが肝要である。
  3. 「わたし」の「韜晦」について、皆で話し合う。主態
    最後に、山々の「韜晦」によって「わたし」に見えなくなってしまっているものがもう一つあることを理解させたい。それは、「わたし」自身の内面のありようである。山々が見る側の内面のありようを反映しているのだとしたら、ここで「わたし」は自身の内面のありようを見失っていることになり、「わたし」が「わたし」自身を煙に巻いて「うまく韜晦してしまっ」ていると読めるのである。自身の内面のありようがわからなくなってしまう心理のありようとはどのようなものかについて皆で話し合い、主題の理解をさらに深めるのもよいだろう。
高度小池昌代
導入
  1. 題名の「高度」が重要なキーワードであることを捉えさせる。
  2. 詩の構成を理解させる。
  3. 詩の主題を考えさせる。
  1. 朗読を通して、大意をつかむ。
    読みやすく大意を理解しやすい詩である。行と行の間、連と連の間を意識してとり、滞りなく読むのではなく、間(ま)により文が中断されることによって長短の呼吸が生じる点を工夫して読ませる。
  2. 四連の構成を把握する。
    第一連は蜂の飛び方の特徴を述べており、第二連~第三連は、ある高さからある高さへの変化から見えるものが、「透明なガイネン」としての高度であること、第四連はその高度が蜂の「生」をささえているかのような存在を示しており、そこに私は惹かれると表明していることを把握させる。
展開
  1. 第一連の内容、全体での位置づけを考える。
    突然、蜂の飛んでいる様子が思い浮かぶような書き出しで、「凜然としている」「はげしく羽をふるわせながら/空間に静止し」そして「がくんと」高度を上下させる動きを描き出す。その飛行形態を蝶と比較し、「折れ線グラフ」に喩えていることに気づかせる。
  2. 第二連、第三連を読んで、「透明なガイネン」とは何かを考える。その際、なぜカタカナ表記にしているのかも考える。知技
    蜂の飛び方から気づかされたものは、「ある高さから/ある高さへ」の変化であり、「そこに在るもの」は高度というものだった。その高度は測って生じたものではなく自然にそうなったもので、主張もしていないことから、「透明なガイネン」と呼ばれる。人間の概念範疇ではなく、飛行自体から生じる自然な抽象そのものであることを示そうとカタカナで表記したことに着目させる。
  3. 第四連を読んで、「高度」になぜ「私が惹かれた」のかを考える。
    そのものと、「蜂の『生』をささえているかのような」高度との比較がされ、その高度を「明確で崇高な」としている点に気づかせる。なぜ「明確で崇高な」のかは、蜂の飛ぶ高さの変化から、「『生』をささえているかのような」ものを感じとったのであり、蜂そのものよりも、その高度は、蜂の「生」をささえる大きな存在に通じていると捉えられていることを押さえさせる。
まとめと発展
  1. 蜂の飛び方から、明確で崇高な「高度」を発見する展開を把握する。
    「はげしく羽をふるわせながら/空間に停止」、それから高度を急に上げ下げする飛行軌跡を描く蜂の飛び方を、「生き方の結果を/冷酷に示す折れ線グラフ」と捉え、そこに「透明なガイネン」としての「明確で崇高な/その高度」に惹かれるとする。具体的な蜂の飛ぶ形態をグラフの線に、そこから「透明なガイネン」としての「高度」を発見する、という展開であることを把握させる。
  2. 「透明なガイネン」という捉え方の特徴を理解する。
    「ある高さから/ある高さへ」という変化から見えてきたものは「高度」だが、この高度は、物としてあるわけではなく、「それ自体/何も測らず/主張せず」ただ「そこに在るもの」である。だから人間にとっての意味性をもつ「概念」ではなく、抽象的に存在するものとして「ガイネン」と表記されていることを理解させる。
  3. 私が「高度」に惹かれた理由を理解する。思判表
    蜂の飛び方を「凜然としている」とし、飛行軌跡から明確に示された「高度」は、「蜂の『生』をささえているかのような」印象を強く与えるものだった。それは物としてあるのではなく、見えないけれどもそうさせているものを確かに感受した、その発見の記録といってもよいことを理解させる。

舞姫森鷗外

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 「舞姫」の雅文体を味わわさせる。
  2. 森鷗外の文学史上の位置について確認させる。
  3. 時代背景について説明し、物語の全体像を把握させる。
  1. 予習として全文を通読(音読)し、難しい語句・表現について調べておく。
    「舞姫」の雅文体のリズムを味わわせることは重要だが、単位時間内に全文を通させるのは難しい。授業に入る前の予習として、全文の通読(音読)と、難しい語句・表現について調べておくことを徹底させる。予習の段階で意味がとれなかった箇所、解釈が難しいと感じた箇所については、マークさせる。
  2. 森鷗外の作家像、作品及び文学史における位置づけを確認する。知技
    森鷗外の作家活動や作品について説明する。日本近代文学史における「舞姫」と鷗外の位置づけについても理解させる。
  3. 作品の時代背景を理解し、作品の全体像を把握する。思判表
    明治二〇年代頃の時代状況を解説し、作品の時代背景を理解させる。物語の大意を示し、全体像を理解させる。
展開
  1. 第一段の精読。物語の構造と、登場人物の置かれた状況について理解させる。
  2. 第二段の精読。登場人物の人物像と変化を読み取らせる。
〈第一段〉(初め~二六八・上6)
  1. 近代の作品数編の冒頭と比較し、文体の特徴について考察させる。知技
    坪内逍遥の「一読三嘆当世書生気質」や樋口一葉「たけくらべ」など、近代の作品数編の冒頭と比較し、「舞姫」の文体の特について考察させる。典雅なリズムを味わうとともに、西欧語に長じていた鷗外ならではの表現法を理解させたい。
  2. 第一段の精読。太田豊太郎の現在の状況を確認し、本作品が豊太郎の手記であることを理解させる。
    冒頭を読み、本作品が太田豊太郎の一人称回想形式で記されたものであることを理解させる。記者の経験もあり、文章を書きなれているはずの豊太郎が、書くことに対して逡巡している様子を読み取り、その理由を考えさせる。この手記が豊太郎にとってどのような意味を持つものであるかに留意して、先を読み進めさせたい。
〈第二段〉(二六八・上7~二七二・下5)
  1. 第二段の精読。留学前と留学後の豊太郎の変化を読みとる。
    豊太郎の留学までの経過を読み取らせる。現代とは異なり、国家を背負って留学に臨んでいたことを理解させる。
  2. 豊太郎が自我に目覚めるまでの経緯を理解する。
    留学での経験を通して、豊太郎が近代的な個人としての意識に目覚めたことを読み取らせる。「奥深く潜みたりしまことの我」に気付き、それまでの自分を国家や家への奉仕に尽くしてきた「器械的、所動的の人物」であり、「我ならぬ我」であったととらえなおしていることを理解させる。
  1. 物語の展開を理解させる。
  2. 登場人物の置かれた状況と心情を読み取らせる。
〈第三段〉(二七二・下6~二七九・上11)
  1. 第三段の精読。エリスとの出会いの場面について考察させる。
    エリスとの出会いの場面を精読し、エリスの人物像を考察させる。「二人の間にはまづ師弟の交はりを生じたるなりき」(二七六ページ)とあるように、当初の豊太郎とエリスとの関係が師弟のそれであったことを理解させる。
  2. エリスとの生活や、豊太郎の置かれた状況及び心情を読みとる。
    免官、母の死という二つの出来事が、豊太郎にどのような変化をもたらしたのかを理解させる。エリスへの気持ちがどのように動いたのかを確認させ、豊太郎の置かれた状況を確認させる。
〈第四段〉(二七九・下1~二八六・上17)
  1. 第四段の精読。物語の展開と豊太郎の心情を読みとる。
    エリスの妊娠という物語の展開を読みとり、行く末を案じる豊太郎の心情を理解させる。
  2. 相沢の人物像について考察させる。
    友人である相沢の人物像を理解し、物語における相沢の役割について考察させる。相沢の忠告とエリスへの愛の間で迷う心を、自身の弱さととらえていることを理解させる。豊太郎の置かれた状況と物語の展開について確認させる。
〈第五段〉(二八六・上18~終わり)
  1. 第五段の精読。結末について考えさせる。
    豊太郎が人事不省に陥るという物語の展開について考察させる。末尾の「一点の彼を憎む心」に注目させ、豊太郎の「文」(手記)がどのような目的で綴られたものであったかをまとめさせる。
まとめと発展
  1. 物語の全体像を概観し、作品の主題を考察させる。
  2. 日本近代文学の流れを説明し、「舞姫」の文学史的な位置づけを理解させる。
  1. 作品の主題を考察する。思判表
    「舞姫」発表当時、近代化のさなかにあった日本の状況を確認し、豊太郎に求められていた役割を理解させる。恋愛小説として読むだけではなく、日本政府の期待する自己と真実の自己との葛藤に苦しむ豊太郎が、過去の自分と向き合い、自己をとらえなおしていく物語であることを理解させる。
  2. 日本近代文学史における「舞姫」の位置付けを確認する。知技
    「近代的自我の目覚めと挫折」を描いた作品として評価されてきた「舞姫」を、日本近代文学史の中に位置づける。「舞姫論争」など、当時の文壇の反応についても紹介したい。
    時間に余裕があれば、鷗外の自身のドイツ留学やエリスとのエピソードも紹介し、「舞姫」の自伝的な側面についても考えさせたい。
  3. 言語活動123に取り組んでみる。主態

みづの上日記樋口一葉

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 筆者について、基本的な事項を確認させる。
  2. スピードや文の切れ目などに注意しながら、全文を音読し、おおまかな内容を捉えさせる。
  1. 筆者について、生きた時代や環境、残した作品など、基本的な事項を知り、理解する。知技
    筆者について詳しく知っている者、作品を実際に読んだことのある者は、多くはないと思われる。若くして戸主となったこと、父が亡くなってからは常に生活に余裕がない中で、女所帯の生計を立てる責任を負ったこと、体調不良に悩まされながらも短期間ですぐれた作品を複数生み出したこと、若くして亡くなったことなどについては、最低限理解させたい。また、当時の女性がおかれていた状況として、職業の選択肢が少なかったこと、作家にも女性は少なかったことなどについても確認しておきたい。
  2. 音読(生徒にさせてもよいが、難しそうであれば教員が読む)を聞きながら、内容の把握に努める。思判表
    日記の文体は、生徒にとっては完全なる「古文」であろう。一葉の作品は目で読むよりも耳で聴いた方が理解しやすい、というのはよく言われるところであるが、それでも限界はあると思われる。時間に余裕があれば、音読を聴いた際にわからなかった単語を、古語辞典等で調べさせたい。事前に調べて来させる、あるいは生徒がつまずくと予想される単語や文法事項を予め教師が説明しておく、ということも考えられるだろう。
展開
  1. 禿木や秋骨の喜びようと、筆者の反応とに落差があることを、本文から読み取らせる。
  2. 高まる世評とそれに伴う人々の反応を、筆者がどのようにとらえているのか、読み取らせる。
  3. もてはやされることと、女性であることとの関連を、筆者がどのようにとらえているのか、読み取らせる。
  4. 日常の記録から、当時の筆者をめぐる状況について思いをはせ、理解を深めさせる。
〈第一段〉(初め~二九二・6)
  1. 禿木と秋骨がなぜこれほどまでに喜んでいるのか、理解する。
    二人の喜びをよく理解するためには、彼らが「文学界」の同人であること、文学史的には「文学界」の人々がいわゆる「浪漫派」に属しており、硯友社系の文学にあきたらずに新しい文学を追い求めていたことなどについても知っておく必要があるだろう。一方、二人の喜びに比して、筆者自身の反応についてはほとんど描かれない。唯一「慌ただしうは問ふこともせず打ちゑみゐる」(二九一・6)とある部分を確認した上で、第二段に進む。
〈第二段〉(二九二・7~二九三・6)
  1. 「たけくらべ」評後の筆者への評価がどのようなものであったか、理解する。
    「かしましう」(二九二・7)、「あさましきまで」(二九二・10~11)などの表現から、それが筆者にとって喜びや誇らしさよりも煩わしさや困惑をもたらすものであったことを読み取らせる。新聞「日本」の評として紹介されている内容は、筆者に対する評価の過剰さや軽薄さを推測させるに十分であろう。
  2. 妹の国子の反応がどのようなものであったか、理解する。
    「喜びながら悲しがる」(二九二・12)という国子の心情について、「そは槿花の…嘆けばなるべし」(二九二・12~13)を手がかりとして読み取らせる。一葉の日記からは、国子が余裕のない生活の中で姉を助けた、よき理解者であったことがうかがえる。
  3. 文名が響き渡るとともに、どのようなことが起こったか、理解する。
    「めざまし草」の「たけくらべ」評が出る前から、筆者の文名は高まり、熱狂としか言いようのない現象が周囲で起こっていたことを紹介する。男性との関係で言えば、筆者は以前、小説の師である半井桃水との関係が周囲で噂され、それによって不愉快な思いを経験していたということを説明してもよい。ここでの記述から感じられるのはゴシップと対峙しようとする堂々とした姿勢であるが、「さして何事の嘆かはしさも覚えねど…物嘆かしう思はれき」(二九三・3~6)という矛盾した表現からは、筆者の困惑を読み取ることもできるだろう。
〈第三段〉(二九三・7~二九三・13)
  1. 第二段の内容をさらに深め、筆者が自らへの賞賛を「女子」であるがゆえであると捉えていることを理解する。
    第二段の内容に加え、このような状況の背景にあるのは自らが「女子」であることだ、と筆者が捉えていることを読み取らせる。一方のジェンダーが行為主体の多数を占めるような分野で、他方のジェンダーが「物珍しさ」(二九三・7)によって過度に注目され、賞賛されるということは、現代でもあり得る。また、その興味が、容姿や私生活など本質とは異なるところに向けられるというのも、よく見られる光景であろう。生徒たちには、自分が過度に賞賛される側であったら、あるいは逆の側であったらどのように感じるか、考えてほしいところである。ただし、性自認についてはセンシティブな内容でもあるので、表現や、意見を聞く方法には一定の注意を払うべきであろう。
〈第四段〉(二九三・14~終わり)
  1. 日常の記録から、筆者の交友関係を知り、筆者についての理解を深める。
    半井桃水、田辺たつ子(三宅花圃)についてはそれぞれ筆者に影響を与えた人物であり、適宜説明を要する。斎藤緑雨や横山源之助についても、緑雨はその皮肉な見方における筆者との親和性を、源之助はその活動内容を説明するとよい。
まとめと発展
  1. 現代において何かを表現する際、ジェンダーがどのように関わってくるか、考えさせる。
  1. 書き手や発言者、創作者のジェンダーによって、与えられる評価や求められる内容が異なることがあるか考え、話し合ってみる。主態
    作家などのプロの書き手という点で言えば、その活躍ぶりに関しては、ジェンダーによる差異はほとんど見られないかもしれない。しかし、より細かく見るならば、ジャンルによっては「男性」の書き手向け/「女性」の書き手向け、というジェンダーに基づく刻印が残っていることもあると思われる。たとえば政治関係のルポルタージュなど「硬派」や「骨太」が求められる分野は男性の書き手向け、暮らしのエッセイなど「細やかな感性」が求められる分野は女性の書き手向け、というように。SNSやブログなど、一般の書き手に関しても、このような区分けを意識した、テーマや文体の選択に関する自己規制は、程度の違いはあれど働くと考えられる。このようなあり方は、文章表現のみならず、音楽や美術などその他の分野でも観察できることではないだろうか。デジタルネイティブであり、生活の一部として発信という行為をする生徒たちは、このことを「自分ごと」として考えられる環境にあると思われる。こちらの思いもよらないような指摘を期待したいところである。

入れ札菊池寛

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 「入れ札」という制度について確認させる。
  2. 国定忠次という人物について確認させる。
  3. 構成を意識しながら、作品を読ませる。
  1. 代表を選出する場合、投票の他にもどのような方法があるか、考えてみる
    指名、自薦、他薦、互選、籤引き、輪番などの方法があり、選出の方法が変わることで、選出される者が変わってしまうことがあり得る。江戸時代、村役や町役など身近な役人を選ぶ際に、入れ札を実施したり、輪番にするところもあったことを、生徒に確認させる。
  2. 国定忠次について自分が知っていることがあれば発表し、疑問があれば質問する。
    古来、双六、サイコロ、花札などを使って賭博が流行、それらに対する禁令が出されてきた。江戸時代、清水次郎長や、国定忠治など、博打を生業とする者たちが組織化、武装して勢力を広げ、縄張り争いが起こった。親分、子分、兄弟分など、彼らは独自のしきたりを誓いを立てて守り、固く団結していたことを指摘しておく。
  3. 学習のポイント1の問いを意識して、本文を読み始める。
    選ぶ側と選ばれる側で、その心理が大きく異なることに注意させる。
展開
  1. 親分の忠次の立場、おかれている状況を読み取らせる。
  2. 子分をかかえて落ちていく親分の心理を読み取らせる。
〈第一段〉(初め~三〇二・下10)
  1. 第一段落を読み、親分の忠次がおかれている状況を読み取り、親分という立場がどのようなものか考える。
    信濃路へ落ちていくことが、自分の縄張りを捨て、故郷の国定村を捨て、見慣れた赤城山も見収めとなる、傷心の旅であることに注目させる。同時に、関所破りが大罪であること、常に追手に追われていることを付け加える。
  2. 親分という立場での心理に注意して、本文を読み進める。
    これまで生死を共にしてきた十一人の子分が、親分の自分に付き従っていること、他国へ落ちる自分の身の安全のために、必要なだけの子分を選んで、他の子分と別れなければならないという状況を確かめさせる。自分のために一命を捨てようとしている人々に甲乙をつけられないという気持ちが、忠次に、「別れるのなら、いっそ皆と同じように、別れよう」(六〇・下20)と決断させることに着目させる。
  1. 親分として提案する忠次の心理を読み取らせる。
  2. 忠次にとって最良の方法として入れ札が決まる過程を確かめさせる。
〈第二段〉(三〇二・下11~三〇五・下9)
  1. 第二段落を読み、提案する忠次の様子、忠次の提案に対する子分たちの反応を読み取る。
    自分の決断を子分に語る忠次が、「忠次が、どこかで捕まって、江戸送りにでもなったと聞いたら、線香の一本でもあげてくれ!」(三〇三・上15)と元気そうに言っていることに注意させる。
  2. 忠次の提案に対する子分たちの反応から、彼らの立場、彼らの性格を考える。
    子分たちの気持ちを代弁するように、真っ先に親分に反対する浅太郎、思いつきで籤引きを提案する十蔵、籤引きという提案に怒って反対する嘉助、嘉助の言葉に反発する喜藏、自分の覚悟をもらす忍松、というように秩序を失い騒然となった一座の雰囲気を、その座にいるようにイメージさせたい。
  3. 入れ札が忠次にとってはどのような意味を持ったのか考える。思判表
    親分として、自分に忠誠な子分たちに甲乙をつけたくないという気持ちと、自分の安全のため、自分の体面のため少数精鋭の子分を選びたいという自分自身の都合を確かめさせる。
  1. 九郎助の立場と入れ札に決まった時の九郎助の思いを読み取らせる。
  2. 札を入れる九郎助の気持ちと、札を投じた後の気持ち読み取らせる。
〈第三段〉(三〇五・下10~三〇八・上12)
  1. 第三段落を読み、第一の兄分でありながら、声望を落とし軽んじられているという九郎助のおかれた立場を理解する。
    「自分の位置が、露骨に崩される」(三〇六・上12)、「自分の信望が少しもないことがまざまざとあらわれる」(三〇七・上12)という表現に着目させる。
  2. 九郎助の票読みを確かめ、あと一票があればという状況と心理を確認する。
    「後の一枚が、自分の生死の境、栄辱の境であるように思われた。」(三〇七・下5)、「途端に、相手に対する烈しい競争心  嫉妬がムラムラと彼の心に渦巻いた。」(三〇七・下15)という表現に着目させる。
  3. 札を投じた後の九郎助の心理を読み取る。
    札を入れた瞬間に、悔悟が胸の中にすぐ起こったのはどうしてか、怒鳴る忠次の声が聞こえ、皆が自分の顔をジロジロ見ているような気がして顔を上げられなかったことと合わせて考えさせる。(六五・上14)
  1. 札が読み上げられるのを聞く九郎助の気持ちを読み取らせる。
  2. 別れる親分子分、それぞれの気持ちを想像させる。
〈第四段〉(三〇八・上13~終わり)
  1. 読み上げられる一枚一枚の札への反応から、親分と子分たちの気持ちを読み取る。
    「浅太郎」の声に忠次は笑顔を浮かべ、読み上げる喜藏は、自分の札が出てうれしそうにニコリと笑い、「喜藏」の札が続いて、得意げに札を差し上げる。「くろすけ」と読み上げられた九郎助が顔から火が出るように思い、「羞恥と、不安と、悔恨とで、胸のうちがかきむしられるようだ。」(三〇八・下19)とあるのに着目させる。
  2. 弥助の嘘に対する九郎助の気持ちの変化を読み取る。
    弥助の嘘に怒って抜き打ちにしようとした九郎助は、自分の卑しさに気づき、「お天道様が、一時に暗くなるような味気なさ」(三一一・下10)を味わうことになる。その変化を生徒にたどってみるように指示する。
まとめと発展
  1. 九郎助が自分の名を書いたことの是非について考える。
  2. 入れ札という方法が果たした役割をまとめさせる。
  3. 作家や作品への理解を深める。
  1. 感想を話し合い、話し合った内容をまとめて発表する。主態
    忠次や九郎助への、非難、弁護に止まらずに、入れ札という方法と関連させて、感想を深めていくことを試みるよう注意する。リーダーシップのあるなしは常に注目されるが、サポーターシップも重要である。子分の立場から、入れ札の結果を見直してみることも必要である。
  2. 学習のポイント3、言語活動2に取り組み、発表された内容について、話し合ってみる。思判表
    自分の名前を札に書いたのは九郎助だけだったのだろうか、子分たちにグループのようなものはあったのだろうか、入れ札を記名にする意味はあっただろうか、などいろいろに考えを深めていく可能性がある。
  3. 国定忠次を扱った他の作品や、この作家の別の作品を読み、この作品と比較してみる。知技
    言語と表現1にあるように、忠次を主人公とする演劇や清水次郎長の浪曲などが好まれたのはどうしてなのか、考えさせてみる。この作品は、当時よく知られた忠次を扱いながら、入れ札をめぐっての、子分九郎助の心理の葛藤を描いてユニークであり、多くの読者を得たろうことが想像できる。

物語と歴史のあいだ野家啓一

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 「物語」と「歴史」の相違について考えさせる。
  2. 本文の構成を整理し、筆者の主張を理解させる。
  1. 一般に「物語」と「歴史」が、どのようなものとされているかを考える。
    まずは本文を未読の状態で、生徒各自が「歴史」と「物語」をどのようなものとして考えているか、確認をさせたい。
  2. 本文を通読し、筆者の主張をおさえる。
    「前者と同様に後者の出来事もまた、歴史を物語るという言語行為、すなわち「物語行為」を離れては意味をなさ」(三一四・12)ないというように、筆者の主張があらかじめ提示されている点を理解させる。
展開
  1. 筆者がこれからどのようなことを論じようとしているのかを理解させる。
  2. 過去の事実のありのままの再現が不可能であることを理解させる。
  3. 「歴史」と「物語行為」の関係性を理解させる。
  4. 「物語」と「歴史」が表裏一体であることを理解させる。
〈第一段〉(初め~三一五・2)
  1. 『源氏物語』『平家物語』の文学史的な位置付けを理解する。知技
    適宜、古典の教材等も用いて、『源氏物語』(物語)と『平家物語』(軍記物語)の一般的な位置付けを理解させる。
  2. 筆者の主張が、一般的な「物語」「歴史」観と異なる点を理解する。
    歴史も「物語行為」を離れては存在しえないという筆者の主張が、「物語」と「歴史」に関する一般的理解とは異なっている点を強調する。
〈第二段〉(三一五・3~三一六・15)
  1. 過去の事実のありのままの描写が不可能である点を理解する。
    歴史教科書等の記述を分析・参照しながら、我々が「歴史」と呼んでいるものが、言葉によって成り立っている点を理解させる。
  2. 「理想的年代記」と「歴史叙述」の相違を理解する。
    身の回りにある歴史年表と、歴史教科書の記述方法の相違を分析しながら、年表には「出来事と出来事をつなぐ脈絡、すなわち「物語」が欠落している」(三一五・11)点を理解させるとよい。
  3. 「記憶」と「思い出」の相違を理解する。
    日記等を例として、過去というものが、現在からの構成意識によって再編成されたものである点を理解させる。
〈第三段〉(三一六・16~三一八・14)
  1. 「思い出」と「歴史」の相違を理解する。
    「記憶」と「思い出」の対比は、「理想的年代記」と「歴史叙述」の区分にも適応されそうだが、筆者は「「思い出」はそのままでは「歴史」に転成することはできない」(三一六・16)と述べる。「思い出」が個人的なものであるのに対し、「歴史」が間主観的なものである点に留意する。
  2. 文献史料や考古学資料等の「史料」が、過去の「客観的事実」そのものでない理由を考える。
    川田順造の引用文を読みながら、なぜ土器が「客観的事実」とはいえないかを考えさせる。
  3. 「解釈の解釈」(三一八・11)、「小説と同じで~してしまう」(三一八・13)等の表現が、どのようなことを言っているのかを考える。
    なるべく文中の表現を用いながら、本文に特有の言い回しを適切に言いかえられるよう指導する。
〈第四段〉〈第四段〉(三一八・15~終わり)
  1. 「歴史的出来事」と「歴史的事実」の関係性を理解する。
    歴史的出来事が、物語行為によって語り出されることで、歴史的事実へと変化していくことをおさえ、そのプロセスを理解させる。
  2. 「物語」と「歴史」が表裏一体であることを理解する。
    第一段であらかじめ提示された筆者の主張と対応していることを理解させる。
まとめと発展
  1. 「歴史」「事実」「物語」「虚構」の関係性を理解させる。
  2. 実際の歴史叙述を確認しながら、その特徴を理解させる。
  1. 「歴史」「事実」「物語」「虚構」という概念の、一般における理解と、本文における説明とを比較検討していく。思判表
    事実は実際にあった出来事や、実在する事柄のことを指し、架空の作り事である虚構とは対立的な概念として考えられている。一般に、歴史は事実に、物語は虚構に区分されるが、言葉を通して物語られた歴史は、そこに様々な取捨選択や解釈が媒介しており、これも物語に他ならない。歴史的事実は、物語ることによって成立する。筆者は、決して「歴史」が「虚構」であると述べているのではなく、「事実」を物語る営為としてとらえている点には注意。
  2. 世界史や日本史の教科書等を参照しながら、その叙述方法の特徴をおさえる。主態
    生徒が普段使っている教科書等を用いながら、内容よりも表現そのものに注目した分析を行う。文学史の教科書を参照してもよい。本文では直接言及されていないが、報道記事等もまた、ありのままの事実の再現ではないことを考えてみるのもよい。

巨人の接待小川洋子

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 作品に興味を持たせる。
  2. 全体の大まかな内容を捉えさせる。
  3. 作品について印象に残ったこと、問を出させる。
  1. 「巨人」という言葉にどんなイメージを持つか考える。
    ここで出る「巨人」という言葉が、作品で世間が「巨人」に対してもっているイメージと共通してくる。自分が持ったイメージと、作品での「巨人」の実際とのズレを、読みながら確認させる。
  2. 作品を通読し、全体の構成を捉える。
    場面ごとにどのような内容になっているか考えながら読ませる。気になったところ、疑問に思ったところにチェックをさせておくと、③の活動がスムーズである。
  3. 初読後、一番印象に残った箇所や問を書き出し、周囲と共有する。知技
    一番印象に残ったところや疑問に残ったところを書き写し、なぜその部分が印象に残ったのか、ワークシートやノートに書き出させる。
    問を立て、グループごとに問について考えていく活動も読みが深まる。
展開
  1. 作品の構成を考えさせる。
  1. 一行空きの段落を確認し、八段落に分け、内容を三つに分類して小見出しをつける。
    この小説は、滞在中の巨人の様子、巨人の生い立ち、野鳥の森公園での巨人の、大きく三つの内容に分けられる。巨人の生い立ちが他段落での巨人の行動と大きく関わっていることに気づかせる。
  1. 第三段までの内容を押さえさせる。
〈第一~三段〉(初め~三二九・下13)
  1. 第三段までの内容を確認し、私、巨人、編集長の人物像についてまとめる。
    脚問などを活用しながら、巨人、私、編集長それぞれの行動や心理描写から、人物像を考える。
  1. 第四段をまとめさせ、巨人が偉大な作家になるまでの背景を考えさせる。
〈第四段〉(三二九下15・~三二二・上6)
  1. 第四段を読み、巨人の生い立ちが巨人の生き方や行動などにどのような影響を与えているかまとめる。
    巨人が偉大な小説家となった背景を読みとらせる。年表を作らせ、どんな経験が巨人にどのような影響を与えているか考えさせる。特に、巨人が地域語しか話さないこと、巨人の声が小さいこと、小鳥を愛することにどのような理由があるか押さえさせたい。
  1. 第五段、六段を読み、巨人の様子を読み取らせる。
〈第五~六段〉(三三二・上8~三三四・下10)
  1. 第五段、六段を読み、第四段の内容を踏まえながら、巨人の様子について読み取る。
    巨人の食事の仕方について、会食時の私の様子、巨人がパンを持ち帰ったことについて考えさせる。
  1. 第七段を読み、公園での巨人の様子と、通訳の私の役割について考えさせる。
〈第七段〉(三三四・下12~三三七・下6)
  1. 第七段を読み、次の点について考える。
    ・「通訳」という仕事について。
    ・「姿は見えないけれどすぐそばにいるらしい誰か」とは、誰のことか。
    ・小鳥は巨人にとってどのような存在か。
    ・「通訳としての正しい振る舞い」とはどのような振る舞いかを踏まえつつ、私が巨人の言葉をどのように通訳してきたかを押さえさせる。
    ・巨人はこの「姿は見えないけれどすぐそばにいるらしい誰か」に語りかけ、作品を書いていることにも気づかせる。
    ・小鳥にパンを分け与えていることや、絶滅した鳥たちのメリーゴーランドに話しかける様子なども踏まえて考えさせる。
  1. 第八段を読み、私が巨人にとってどのような存在であったか考えさせる。
〈第八段〉(三三七・下8~終わり)
  1. 第八段を読み、巨人と私の関係について考える。
    巨人の私への対応から、私が巨人にとってどのような存在であったか考える。また、全体を通して、私がどう巨人と信頼関係を築いていったのかも考えさせたい。
まとめと発展
  1. 全体を通して、巨人の「巨人らしい」ところとそうでないところを考えさせ、なぜ巨人が巨人と表現されているか考えさせる。
  2. 「言葉」が人間のあり方や人生にどのように関わっているか考えさせる。
  1. 全体を読み、「巨人」が「巨人らしい」ところ、「巨人らしくないところ」を図にまとめ、なぜ巨人が巨人と表現されているか考える。思判表
    世間から見た巨人と、通訳の私の立場から見た巨人とではずれがある。巨人という周囲が持つイメージと一致している「巨人らしいところ」とそうではないところをまとめ、なぜ巨人が巨人と表現されているのか考える。
  2. 巨人が地域語しか話さないことなどを踏まえ、「言葉」が人間のあり方にどのように関わっているか、「言葉」とはどのようなものかについて考える。主態
    地域語しか話さない理由はどこにあるのか考えつつ、本教材の背景となる、複数の言語をめぐる社会情勢や、歴史についても知る機会とさせたい。また、言語の問題は、アイデンティの問題と深く結びついているため、単元全体の言語活動にもつなげたい。

はじめての沖縄岸政彦

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 取り上げられた事例に関心をもたせ、全体を通読させる。
  2. 沖縄について知っていることを確認させる。
  1. 本文で触れられている「沖縄」の事例に注意しながら、全体を通読する。知技
    意味段落を意識させながら、本文全体を通読させる。外部の人間である筆者が、沖縄についてどのように考えているのかを把握させる。
  2. 「沖縄」と聞いてイメージするものを列挙する。
    生徒に自由に発言させる。修学旅行や家族旅行で実際に訪れたことがある場合は、その時の印象を共有する。その他、時事的な話題に触れても良い。
展開
  1. 〈第一段〉を理解させる。
  2. 〈第二段〉を理解させる。
  3. 〈第三段〉を理解させる。
  4. 〈第四段〉を理解させる。
〈第一段〉(初め~三四一・1)
  1. 「沖縄病」とはどういうものか理解する。
    「病」の辞書的な意味と、比喩表現の違いを理解させる。また、筆者の「沖縄病のナイチャー」に対する批判的なニュアンスをとらえさせる。
  2. 「沖縄のことをよく勉強する」ことと「沖縄ととも生きる」ことの違いを理解する。
    〈第二段〉以降に出てくる、「ナイチャー」と「ウチナンチュ」、「ほんとうの沖縄」と「ふつうの沖縄」との対比関係に注意させる。
〈第二段〉(三四一・2~三四二・11)
  1. 筆者は「ほんとうの沖縄」をどのような意味で使っているか理解する。
    評論文における「」(カギカッコ)の意味について説明する。ここで、筆者はなぜ「ほんとうの沖縄」に「」をつけたのか、生徒に考えさせる。
〈第三段〉(三四二・13~三四五・3)
  1. 「ほんとうの沖縄」と「ふつうの沖縄」の対比を理解する。
    どこで、筆者の考えが転換しているのか考えさせる。「ほんとうの沖縄」と「ふつうの沖縄」の具体例を整理して説明する。
  2. 「本質主義の危険性」を理解する。
    言葉の意味だけでなく、「沖縄病のナイチャー」の考え方に含まれる、他者排除の構造も説明する。
〈第四段〉(三四五・4~終わり)
  1. 筆者の考える「沖縄らしさ」はどこにあるのかを考える。
    大きく変化する都市としての沖縄に対して、筆者の見出した、それでも変わらずしっかりと存在する沖縄とは何かを考えさせる。本文中の例示を整理する。
  2. 「当たり前すぎて、注意して見ないと分からない」ことにはどのようなものがあるか、考える。
    当たり前の事柄に対して疑問を持ち、問いを立てることは学問の基本である。できるだけ、生徒に自由に考えさせ、適宜事例などを提示して、思考のサポートを行う。
まとめと発展
  1. 本文全体の要点を理解させる。
  2. 自分の周囲で当たり前に使われる言葉を相対的に意識させる。
  1. 全体を通して読み直す。筆者が自分の考え方を反省し、乗り越えていく論理展開を理解する。思判表
    はじめは「沖縄病のナイチャー」と同じく「ほんとうの沖縄」を求めていた筆者が、ふつうの沖縄こそがほんとうの沖縄であり、それを大好きだと思うようになる過程を確認する。本文の特色でもある、筆者の個人的な体験や主観的な表現にも注目させたい。
  2. 自分が日常で使う言葉や、方言だとは思われていない方言がないか調べる。主態
    自分の身近にそのような言葉を使う環境がなかったら、書籍やインターネットなどを用いた調査発表という形にしてもよい。

アイデンティティ藤野可織

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 全体を通読させ、どのようなテーマが描かれているかを確認させる。
  2. モチーフになる人魚のミイラなどについて理解させる。
  3. 小説の展開を整理させる。
  1. 本文全体を通読し、どのようなテーマが描かれているかを考える。
    何人かを指名してまずは全体を音読させる。難しい語句などは少なく、スムーズに読める小説であるが、登場するモチーフなど、わからないところがあればチェックさせて、確認させる。
  2. モチーフになっている人魚のミイラなどが、どのようなものかを理解する。知技
    本作に登場する人魚のミイラとはどのようなものか、図版などを見て確認させる。また、人魚についての民間信仰や、海外への輸出の歴史についても理解させる。このような人魚のミイラについて、どのような印象を感じるかも意見を述べさせるとよい。
  3. 小説の展開を整理してまとめる。
    改めて小説全体の大まかな展開を整理させ、大きく三つの場面(人魚工場・船の中・異国の地)に分けて捉えさせる。それぞれにどのような人物・存在が登場しているかも書き出させる。
展開
  1. 各段落に登場する人物や存在を確認させて、それらの関係がどのようなものであるかを理解させる。
  2. それぞれの関係性を踏まえて、「それ」の自己認識がどう変化していくかを捉えさせる。
〈第一段〉(初め~三五二・下10)
  1. 「それ」がどのような存在であるか、「それ」と助六の会話、助六と職人たちの関係に注目しながら読み取る。
    繰り返される「猿です」「鮭です」「人魚です」の言葉が、それぞれどのような文脈で、どのように発せられているのかに注目させて、その効果を捉えさせたい。また「それ」と助六との関係はもちろん、助六と職人たち、「それ」と人魚たちとがどのような関係になっているのかもよく確認しながら、アイデンティティのできていく仕組みを理解させる。
  2. 「それ」と助六の関係の変化を捉える。それによって「それ」の自己認識がどう変化するのかを読み取る。
    「それ」が感じるようになっていく「恐怖」とはどのようなものかを理解させた上で、それが助六との関係、ひいては「それ」の自己認識にどのような変化をもたらしていくのか、なぜそう変化していくのかを考えさせる。
〈第二段〉(三五二・下11~三五四・下13)
  1. 船の中の「それ」の自己認識がどのようなものかを読み取る。
    船の中にいる「それ」は直接他者と対峙することはないが、助六による承認を頼りに、その認識を反復するようにしながら自己認識を強化しているという図式を的確に理解させたい。直接に他者が存在していなくても、他者の期待が自己に内面化されているということに留意させたい。
  2. 「人魚たち」の想像的アイデンティティについて考察する。思判表
    「人魚たち」と「それ」の関係、それぞれの違いを踏まえつつ、「人魚たち」が想像する自分たちの歴史やヴィジョンの意味を読み取らせる。特に非現実性の高い部分であるので、理解の難しいところであるだろう。人間の考える現実原則だけが絶対のものではないということも提示しながら、「人魚たち」がそのような想像をすることの意味を中心に考えさせたい。
〈第三段〉〈第三段〉(三五四・下14~終わり)
  1. 「それ」がマイルズと出会って、どのような自己認識の変化が生じていくのか、なぜそのように変化するのかを読み取る。
    マイルズは「それ」が想定していたような反応を示さず、そこから「それ」の感情は動揺、恐怖、憎悪と、何段階かの変化を見せる。そしてそれが霧散した後に至る気持ちについてはわかりやすい明言はないが、マイルズの言動、「それ」に生じているあたたかい感覚を読み取りながら、どういう自己認識をもたらすものであるのかを考えさせたい。
  2. マイルズの死後、「それ」が最終的にどのような自己認識に至ったのかを読み取る。
    五十年のあいだに何があったかは描かれないが、「それ」の変化から、マイルズとの関係が「それ」にとってかけがえのないものであったことを捉えたい。最後には「それ」による説明もあるので、そこでいわれていることがこれまでのどういう事象にあたるのかをよく確認させて、小説全体の理解を確かにしたい。
まとめと発展
  1. 小説全体を振り返って、アイデンティティとはどのようなものであるかを調査、議論させる。
  1. 改めて、アイデンティティとは何か一般的な意味を、辞書や専門書を調べるなどして確認する。それが小説のどういうところと対応しているかを考える。主態
    アイデンティティとは広範な概念であり、哲学、心理学、あるいはポップカルチャーなどの文脈でカジュアルに使用されるような言葉でもある。生徒のあらかじめもっている理解の枠組みだけに留まらないように、小説の具体的な表現と対照させながら複雑な概念を発展的に理解させたい。
  2. 「それ」が経験したことを応用して、現実社会の他のどのような場合を連想できるかを挙げる。主態
    小説の内容から発展させて、自分たちの生きる現実社会の問題に接続して考えさせることを試みたい。ただし、アイデンティティについての議論は、個人のプライバシーに関わることの告白を強いる可能性や、マイノリティ性を抱えるものに居心地の悪さを感じさせる可能性がありえるので、十分な配慮の上で安全に議論ができるように工夫したい。

愛について竹村和子

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. タイトル「愛について」、思いつく「愛」を話し合わせる。
  2. 全文通読させる。
  3. 難解な語句は意味を調べさせる。
  1. 「愛について」というタイトルから思い浮かんだことを話し合う。
    「愛」という言葉を使ったことのある生徒はそう多くない。そこで、小グループにして話し合って、意見の出ないときは「○○愛」の空欄部分を考えてもらっても良い。親子愛、師弟愛、異性愛、同性愛、動物愛、自己愛、など様々な言葉が出ることが想定される。できたらこれらの「愛」に共通して必要なものは何か、考えさせたい。
  2. 全文通読する。
    通読の際に、できるだけ全体の構造を意識して読む習慣を付けさせる。
  3. 難解な語句の意味を調べ、語彙を増やす。知技
    語彙を増やすだけではなく、辞書的な意味を知っていてもよくわからない部分こそが読解すべき部分であることを生徒に理解させる。また、そういった部分が前後の文章を正しく読み取ることにより、理解できるようになるということを、本文を通じて体感させたい。
展開
  1. 「語り手」と「聞き手」の関係性を理解させる。
  2. アイデンティティがプロセスを経て生成するものであること、またそれがカテゴリー化したり、固定化したりできないものであることを理解する。
〈第一段〉初め~三六〇・10)
  1. エピグラフのはたらきについて考える。
    エピグラフの役割について考えさせることで、エピグラフを本文読解の手掛かりにさせる。
  2. 「語り手」と「聞き手」の関係について正しく理解する。
    「語り手」と「聞き手」についてそれぞれ整理させ、その相互関係について考えさせる。
〈第二段〉〉(三六〇・11~三六一・13)
  1. 「名づけ」とアイデンティティの関係について理解する。
    「名づけ」をすることや、されることに追って、自己が承認されていくことを理解させる。
  2. 「アイデンティティの政治」がもたらすメリットとデメリットを理解する。
    「アイデンティティの政治」や「(ビ)カミングアウト」の政治」が我々にもたらす利益と、それらに参加することで負うリスクについて理解させる。
  1. 筆者の主張を理解させる。
  2. 「自己の中に差異」はどのようにして生じるのか、理解させる。
〈第三段〉(三六一・14~三六二・10)
  1. スピヴァックの主張を理解する。
    スピヴァックと筆者が社会構築的な考え方についてどのような点で批判をしているのかを理解させる。
  2. 「責任を持つ(応答する)」ために必要なものについて、筆者の主張をつかむ。
    筆者が述べる「自己に対して差異を生じさせる持続」について考えさせ、それが自己の中でも必要であることを理解させる。
〈第四段〉(三六二・11~終わり)
  1. 「語り」が「語り手」から「聞き手」へどのように伝わり、どのような影響を与えていくのか理解する。思判表
    「語り」という体験が人から人へ伝わるだけでなく、自己の中でも行われる体験であることを理解させる。また、「語り」によって生じる差異を生じさせる螺旋型の変容によって人間が日々変容していくことを理解させる。
まとめと発展
  1. 文学作品の鑑賞が自己の内部で差異を生じさせる行為に大きな影響を与えることを理解させる。
  1. 文学作品によって自己の考え方や在り方が変わった経験を話し合う。主態
    文学を鑑賞することは決して受身な行為ではなく、自己の中での応答という主体的な行為であることを理解させる。

抒情の探究

短歌十四首
俳句の力学
俳句十二句
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
短歌十四首木下利玄・会津八一・岡井隆・河野裕子・福島泰樹・水原紫苑・斉藤斎藤
導入
  1. 近現代歌人について理解させる。
  2. 教科書掲載の短歌について、概要をつかませる。
  1. 国語便覧等を使用して木下利玄・会津八一・岡井隆・河野裕子・福島泰樹・水原紫苑・斉藤斎藤について文学上の位置と役割を確認する。
    国語便覧の該当部分から掲載されている歌人について調べ、短歌についての意識を喚起させる。なお、便覧に掲載されていない歌人については、事典やWebなどで調べさせる。授業前の課題として事前に学習させて、授業時に簡単な報告を求めてもよいだろう。
  2. 「短歌十四首」を音読して、掲載されている短歌の概要をつかむ。
    →深い学びのために〔言葉と表現12〕
    知技
    「短歌十四首」について、句切りを意識しながら音読する。
展開
  1. 近現代歌人の作風の特徴を理解し、主題をつかませる。
  2. 短歌の背景となる時代や、各歌人の人生を把握しながら短歌を鑑賞させる。
  1. 短歌一首の板書・朗読・分析・読解・修辞法・鑑賞などの例を見て、鑑賞方法を理解する。
    →深い学びのために〔学習のポイント1〕
    短歌一首の鑑賞例を示す。たとえば、木下利玄の「なづななづな~」の歌を例として板書し、短歌の語彙・鑑賞のポイントなどを確認させる。字余りなどについても理解を深める。
    ・「なづななづな~」の歌にある「切り抜き模様」はナズナのどのような部分を歌っているか考える。
  2. 班やグループで、木下利玄・会津八一・岡井隆・河野裕子・福島泰樹・水原紫苑・斉藤斎藤の歌について、鑑賞しながら意見交換する。
    →深い学びのために〔学習のポイント2~7〕
    思判表
    会津八一の歌については、仮名の分かち書きの効果と、作者の心情について考える。
    ・「おほてらの~」の歌にある「つきかげ」は何を指しているか考える。
  3. 興味や関心を抱いた歌を指摘し合う。
    →深い学びのために〔学習のポイント8〕
    岡井隆の歌については、時代背景を考える。
    ・「眠らざりける~」の歌にある「仮説を下痢す」とはそのような状況を指しているか考える。
  4. 河野裕子については、本教科書「短歌の輪郭」(一四七ページ)で学習したことを確認する。
    ・「たとへば君~」の歌にある「ガサッと」には、どのような心象が託されているか考える。
  5. 福島泰樹の歌から、青春への思いを読み取る。
    ・「青春は~」の歌においては、なぜ青春を「沙漠の花」と表現したのか考える。
  6. 水原紫苑における想像性の広がりについて考える。
    ・「こばれたる~」の歌にある「花野なるべし」を口語で正しく言い換えて理解する。
  7. 斉藤斎藤の短歌における現代的な視点について理解する。
    ・「このなかの~」の歌においては、「どれか」に託されている心情を考える。
まとめと発展
  1. 生徒自身の感覚で短歌を深く理解し、鑑賞させる。
  2. 「俳句十二句」の学習後、文学の窓「底荷」を読ませ、続いて「単元の言語活動」としてアンソロジーを作成し、短歌・俳句に関する理解を深めさせる。
  1. 心に残った短歌についての鑑賞文二〇〇字程度を書いてまとめる。
    →深い学びのために〔言語活動〕
    思判表
    どのような点で心に残ったかを記述させる。また、選んだ短歌について意見交換して、視野を広くする。
    〈注〉本活動は、単元の言語活動(アンソロジーの作成)と関連付けて実施することもできる。
  2. 「俳句十二句」の学習後、文学の窓「底荷」(上田三四二)を読んで、短歌・俳句への捉え方を知る。
    読者としての立場からも、短歌・俳句に関わることができることを理解する。
  3. 「単元の言語活動5」の文章を読み、アンソロジーを作成する。
    →単元の学習活動〔課題1~3〕
    主態
    単元の学習活動に即して、アンソロジーを作成する。
俳句の力学岸本尚毅
導入
  1. 全体の内容と構成を理解させる。
  1. 全体を通読し、語句の読みと意味を理解する。知技
    事前の課題として語句の意味調べの予習をさせておく。
  2. 段落構成を確認する。
    既に分かれている段落にそって内容構成を考えさせる。
    ※設定時間が短い教材であり、各学習活動はあらかじめワークシートを作成し進めさせても良い。
展開
  1. 俳句の形式と内容の関係を理解させる。
  2. 形式が内容を自由にするという筆者の考えを理解させる。
〈第一段〉(初め~三七一・4)
  1. 俳句の形式と内容、その関係について筆者の問題提起を整理する。
    俳句の形式と内容、その関係について筆者の問題提起を整理する。
  2. 俳句らしさを決定するものについての筆者の問題提起を理解させる。
〈第二段〉(三七一・5~三七三・1)
  1. 俳句の形式が内容にどのような影響を与えているのか筆者の考えを理解する。(前半)
    俳句の形式と内容の影響関係についての筆者の考えを読み取る。
  2. 文中の俳句の具体例から①を確かめ理解する。
    ①の理由として筆者があげている「小ささ」と「季題」について整理し理解させる。
  3. ②は時間的に余裕があれば授業中に確認させたい。
〈第三段〉(三七三・2~終わり)
  1. 俳句の形式が内容にどのような影響を与えているのか筆者の考えを理解する。(後半)
    ④に続いて筆者があげている形式の「小ささ」がもたらす「発想の自由さ」と「発想の単純さ」をについて理解させる。
  2. 文中の俳句の具体例から①を確かめ理解する。
    最後の結論部分二行を読み、本文全体の筆者の主張を振り返させる。
  3. ②は時間的に余裕があれば授業中に確認させたい。
まとめと発展
  1. この文章を通して、筆者が伝えようとしたことをたしかめさせる。
  2. 俳句の形式と内容の関係について話し合わせる。
  3. 「俳句十二句」を参考に有季定型以外の俳句では何が違うか話し合わせる。
  1. 全体の構成を理解し、要旨をまとめる。思判表
    二〇〇字または一〇〇字で全体の要約を書かせる。第二段落は具体例が多いので無駄に長くならないよう抽出するポイントの絞り込みに注意させたい。
  2. 筆者の主張通りに俳句形式を有季定型のものとする場合と、そうではない場合の違いについて考えてみる。主態
    本文部分の筆者の考えでは、有季と定型が俳句形式の必須条件のように読めるが、歴史上は無季や自由律の俳句が存在するので、「俳句十二句」所収のそれらを取り上げ、筆者のあげたキーワードである「小ささ」「単純化」「自由さ」などの有無を話し合わせてみたい。その際、俳句に対するさまざまな読み方、考え方が引き出せればよく、無理に筆者の主張に沿わせる必要はない。
俳句十二句高浜虚子・加藤楸邨・石田波郷・桂信子・森澄雄・飯田龍太・三橋敏雄・飯島晴子・高柳重信・池田澄子・正木ゆう子・田中裕明
導入
  1. 俳句の基礎知識を理解させる。
  2. 俳句の、他ジャンルとの違いや、成立の歴史を理解させる。
  3. 句を音読し、生徒にも音読させる。
  1. 俳句や俳人について知っていることを自由に考えつつ、掲載された句と俳人を確認する。
    俳句について知っていることを挙げるよう、生徒に問いかけ、自由に発言させる。俳人や俳句、俳句の修辞などなるべく多く挙げさせる。
  2. 近・現代俳句史のおおまかな流れと、取り上げてある俳人の立ち位置を確認する。
    近・現代俳句の流れや特徴について、大まかな見取り図を理解させる。
展開
  1. 俳句を鑑賞させる。日常の言葉遣いとは違う俳句の省略表現が想像の余地をもたらすことを理解させ、内容を味わわせる。
  2. 高浜虚子から田中裕明までの十二句について、それぞれの俳句と俳人の特色を捉えさせる。
  1. 俳句の鑑賞にあたり、以下の要点を理解・整理する。知技思判表
    ⒜季語(季題)の働きと句の季節感
    ⒝切れ字・切れ
    ⒞定型・破調・非定型などの音律上の違い
    ⒟語句の意味や働き
    ⒠表現や発想の特徴や工夫
    ⒡描かれた情景や心情
    ⒢句に直接に表現されていないところも含めて、自分はどのような内容の句だと読みとったか
    ⒣なにがその句をおもしろくさせているのか、気付いた点や自分の感想
    教科書の俳句を例に、上記⒜~⒣について簡単に説明する。すべての俳句を設定時間内に丁寧にみていくことは難しいだろう。各句の鑑賞に入る前に、「深い学びのために」の問を軸にしてあらかじめ資料を配布したり、インターネット上の俳人や俳句の情報を取材させるなどし、宿題としてワークシートやノートに上記⒜~⒣について書かせておくのもよい。
まとめと発展
  1. 全体を振り返り、俳句の特徴や魅力を確認させる。生徒に俳句を作らせたり、俳句をもとに鑑賞文を書かせたり、掲載されている句を発句とした連句を巻いたり(「三つ物」の形態ならば課題の範疇に収めることもできよう)、あるいは掌編の物語に翻案させるなど、生徒による創造的な言語活動につなげてもよい。俳句という文芸を楽しむうえで、できるだけ多様な方法を提示したい。
  1. 全体を振り返り、学習したそれぞれの俳句の特徴や魅力を確認する。可能であれば自分の創造的な言語活動のきっかけとする。主態
    「深い学びのために」の問いの解答や、各句の解釈・鑑賞を参照しつつ、全体をまとめる。

一瞬の共同性を生きる星野智幸

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 全文通読させる。
  2. 初読の感想や疑問を述べ合わせさせる。
  1. 全文通読をする。
    通読の際に、できるだけ全体の構造を意識して読む習慣を付けさせる。
  2. 初読の感想や疑問を述べあう。
    比較的平易な語り口であるため、生徒が感想を言いやすい文章である。その中で感想と共に疑問点も出させ、互いの感想の中から、読解の不足に気づかせたい。
展開
  1. 「共同体」とは何か、考えさせる。
  2. 「共同体の物語」とは何か、筆者の述べる「文学」の意味を踏まえて考えさせる。
〈第一段〉(初め~三八一・7)
  1. 「共同体の物語」とは何かを理解する。
    「共同体」をいくつか挙げさせ、その「共同体」が共有しているものを考えさせる。
  2. 「共同体の物語」と「個人の物語」の違いを考える。
    「共同体」で共有されたものと個人を比較させ、「共同体の物語」に「個人の物語」が「乗っ取られ」るとはどういうことか、考えさせる。
〈第二段〉(三八一・8~三八一・16)
  1. 「文学」の定義を確認する。
    筆者の述べている「文学」の意味を確認させる。それが辞書的な意味だけでなく、筆者による定義づけがなされており、その定義を理解して読解することの重要性を確認させる。
  2. 「文学」における「共同性」がどのようなものか、確認する。
    自分の「文学」と他人の「文学」との間に「共同性がどのように生じるのかを確認させる。平易な語り口であるからこそ、読み飛ばさないよう丁寧に読解させる。
  1. 文学と物語の関係性と理解させる。
  2. 筆者の考える「文学」に求められるものを理解させる。
〈第三段〉(三八一・17~三八二・11)
  1. 「個人の物語」と「公の物語」を理解する。
    「個人の物語」と「公の物語」がそれぞれどのようなものかを理解させる。その際、卑近な例を挙げさせ、それらが身近にあるものだということまで理解させたい。
  2. 「個人の物語」・「公の物語」と文学の関わりを理解する。
    「個人の物語」と「公の物語」が決して背反するものではなく、時間の経過とともに変容したものであることを、「文学」との関わりを用いて理解させる。
〈第四段〉(三八二・12~終わり)
  1. 筆者が文学に求めていることを理解する。思判表
    「物語」を紡ぐ「個人の言葉」と「公の言葉」に注意し、「一瞬の共同性」がなぜ超なのかを考えさせる。
まとめと発展
  1. 身の回りの言葉を振り返り、「物語」が存在するか確認させる。
  1. 自分の身の回りにある逸話・スローガン・キャッチコピーなで「物語」にあてはまるものがあるかを考える。知技主態
    生徒が普段何気なく目にしている逸話・スローガン・キャッチコピーなどにも個人の言葉や公の言葉、といった様々な思惑があり、それらの成り立ちや効果を理解したうえで言葉と向き合う必要性を理解させる。同時に、自分自身が何気なくSNSなどで発している言葉も生徒自身の言葉から大きな「物語」へと変化する可能性があり、それを踏まえて言葉を紡ぐことの大切さも理解させたい。

苦海浄土 ―もう一ぺん人間に―石牟礼道子

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 題名の「苦海浄土」および「もう一ぺん人間に」を意識させながら通読させる。
  1. 題名と内容のつながりを確認しながら読み通す。知技
    生徒に本文を黙読させながら、「苦海浄土」という題名の両面価値的な意味や「もう一ぺん人間に」という登場人物の願いに至るプロセスについてイメージさせる。
  2. 話の展開をつかみ、意味段落ごとに本文の読解をする。
    「構成」を参考にして整理する。第四段落において、「私」が大学病院を訪れ、死者の剖検結果や生前の「履歴」を示す一方で、当事者の「声」を借りて「解剖」について示す箇所への留意を促す。
展開
  1. 水俣湾沿岸部で漁業を営む人びとの生活や、人びとの関係性を把握し、そこで生きる人の苦楽を考えささせる。
  2. 公害による環境汚染は、そこで暮らす人にとって、どのような害として示されているのかを考えさせる。
  3. 多様な語り手や語り口の効果を考えさせる。
〈第一段〉(初め~三八八・上12)
  1. ゆきにとっての「海」とはどのようなものかを整理し、体が思うように動かなくなってきたことが、ゆきにとってどのようなことなのかを理解する。
    ゆきと茂平や、集落の人びとの生活における価値観や関係性を読み取る。また、その価値観を全うして生きることを難しくさせられるような事態が、自分の身体へのゆきの違和感を通して示されていることを把握させる。
    ・生徒たちにとって、海とはどのような場所かを思い浮かばせながら、集落の人びとにとっての「海」の価値を理解させる。
    ・ゆきの心情が方言による直接引用で示されていることの効果を考えさせる。
〈第二段〉(三八八・上14~三九〇・上15)
  1. 「爺ちゃんの稼ぎ」に寄与できなくなっているゆきの不安を理解する。
    「月ノ浦のハイカラ病」という俗称によって病を認識する人びとや、病として明らかにされない、自分の身体への違和感を持つゆきの不安が、知人の死という深刻な事態を背景として増幅される様子を読み取らせる。
    ・ゆきの焦燥感や不安は、何が原因となっているのかを話し合わせる。
〈第三段〉(三九〇・上16~三九二・上2)
  1. 「集落の夏はひっそりしていた」ことの内実について、集落に起こったことを整理する。
    水俣湾沿岸部と、その内部の集落の自然環境が破壊されること(海が汚染されること)と、ゆきのような状態の者が増え、その悪化が並行して示されることを読み取らせる。
    ・公害による被害の描写の特徴について、地名が多用されていることの意義を考えさせる。
〈第四段〉(三九二・上4~三九四・上9)
  1. 「ヨネモリ例の~シュッパツスルノデスヨ」は、なぜカタカナで表記される必要があったのかを考え、そのうえで「私」が「一人の女体の解剖」に立ち会って得た知見とは何かを整理する。
    ゆきの病室を訪れてから六年後に、語り手の「私」が大学病院を訪れて剖検結果を医師から聞いたり、死者を解剖する現場に立ち会ったりしたことを確認する。そこで「私」が解剖に対するゆきの不安や恐怖も知りつつ、原因解明のために必要な剖検と、その対象とされる死者をどのように認識することになるのかを把握させる。
    ・武内忠男教授が説明したらしい剖検結果がひらがなと漢字で表記されたり、「 」で括られる直接引用で示されたりした場合と比較して、カタカナで表記されることの意義を考えさせる。
    ・解剖に立ち会った「私」に込み上げてきた「なつかしい悲傷のおもい」について、ゆきの「声」とつなげて考えさせ、「水俣病の死者たちとの対話」とは、「私」に何を思わせる「儀式」であるのかを話し合わせる。
〈第五段〉(三九四・上11~終わり)
  1. 作品の最後に示される「もう一ぺんきっと人間に生まれ替わってくる」というゆきの言葉から読み取れる生への執着の内実を考える。思判表
    死者が解剖された現場を伝えるゆきの語りが、医師の説明や「私」の語りとどのように異なるのかを読み解く。
    ・ゆきが、いまは汚染されてしまった海への愛着を語り、漁をすることを望みながら生に執着することについて、集落の暮らし、人と人、人と環境との関係性に対して、どのような情を表現するものになっているのかを、方言によることも踏まえて考えさせる。
まとめと発展
  1. 『苦海浄土』の独自性について話し合わせる。
  1. 水俣病に関する同時代の記事や文献を調べ、さまざまな文章を集めたうえで『苦海浄土』の独自性について話し合う。主態
    公害の被害を告発したルポルタージュとされることも多い『苦海浄土』だが、客観性を重視することが、どこまで本作で意識されていると言えるのか、といった視角も手がかりとし、一人称で語るゆきのありようとはどのようなものだと言えるのか、同時代の記事や文献で描かれる〈水俣病患者〉とも比較して考えを進めさせる。

日本文化私観坂口安吾

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 「日本文化」という言葉から連想するものをそれぞれ確認させる。
  2. 全文を通読させ、何(テーマ)が、どのように展開しているかを確認させる。
  1. タイトルにある「日本文化」という言葉から連想するものをあげる。
    何人か指名し、タイトルの「日本文化」という言葉で連想するものをあげさせる。その上で、なぜそう思うのかを話させる。さほど突っ込まずともよく、今後の授業展開の中で振り返る要素となればよい。
  2. 四〇一、四〇三の写真をもとに、どのような印象を受けたかを述べる。筆者の略歴を確認する。知技
    それぞれの写真から受ける印象について話させる。特に四〇一の坂口安吾の写真から、筆者について紹介する。また、四〇四の著者紹介から、「無頼派」としてくくられることがある点に言及してもよい。
  3. 本文全体を音読する。
    通読の後、何人か指名し、読みにくい箇所や分かりにくい箇所について指摘させる。
展開
  1. 第一段を読ませる。
  2. 小菅刑務所の例で筆者が主張していることを把握させる。
〈第一段〉(初め~三九八・6)
  1. 全体を四段落に分ける。
    本文の形式段落は十七あるが、それをまず四段落に分けさせる。分け方の目安としては、具体例が出てきて論が展開する形式段落に注目させる(小菅刑務所・ドライアイス工場・駆逐艦の三つを説明する箇所と、陸上競技選手などの例が述べられている箇所)。
  2. 第一段を再読する。「小菅刑務所」の特徴について把握する。
    小菅刑務所の建築の特色について考えさせる。
  3. 「美的装飾」と「美しさ」との含意の違いを認識する。
    「美的装飾」(三九八・1)と「美しさ」(三九八・4)との間に違いがあることを意識させる。「美しさ」の含意は、この後の段全体に関わってくる。
  1. 第二段を読ませる。
  2. ドライアイスの工場について筆者が主張していることを把握させる。
  3. 小菅刑務所とドライアイス工場の両方に共通している特徴を把握させる。
〈第二段〉(三九八・7~四○○・3)
  1. ドライアイスの工場と小菅刑務所との共通点について理解する。
    ドライアイスの工場の特色について考えさせる。同時に、それがあった築地がどのような土地柄であったかを考えさせてもよい。取手と同様、当時は寂れた場所であった点が強調されており、「文化」の中心地から外れている場所として描かれていることが読み取れよう。
  2. 小菅刑務所とドライアイスの工場が、聖路加病院・法隆寺・平等院と対比されていることに着目し、両者の違いを把握する。
    聖路加病院と法隆寺・平等院は知識を当てはめなければ納得できない「美しさ」であり「直接心に突き当たり、はらわたに食い込んでくるものではない」とされる。それに対して小菅刑務所とドライアイスの工場は「懐かしいような気持ち」(三九八・4)や「郷愁」(四〇〇・2)を通した「直接」性に関わっている。また、「緊密な質量感」(三九九・10)という表現は、後の陸上競技選手やイ―十六型戦闘機とも共通する特徴である。
  1. 第三段落を読ませる。
  2. 駆逐艦の例を通して筆者が主張していることを把握させる。
  3. 三つの例に共通している要素について確認させる。
  4. 筆者の文章観について理解させる。
〈第三段〉(四〇〇・4~四○二・1)
  1. 駆逐艦・小菅刑務所・ドライアイス工場に共通する「必要」というモチーフを把握し、それが「独自の形」を作り出すという主張を理解する。
    文中にある三つの例の「美しさ」を支えるものとして、筆者が「必要」という言葉を導入していることに着目したい。さらに「必要」は「独自の形」、「何物にも似ない」ものを生み出すことへ結びついてゆく。これが筆者の文化論と結びついてゆくことに、改めて注意を促すとよいだろう。
  2. 「必要」というモチーフが、筆者の文学観と結びついていることを把握する。思判表
    この段は、建造物から文学へと議論が大きく展開し、筆者の主張が全面的に展開されている点で要となっている。四〇一・15からは「汝」という呼びかけが用いられていることに着目させ、何人かを指名し、各自が文章を書くときに重要視していることを問うてもよい。
  1. 第四段を読ませる。
  2. 百メートル走者と戦闘機の例で、筆者が重視していることを理解させる。
  3. 筆者の文化に対する考えを把握させる。
〈第四段〉(四〇二・2~終わり)
  1. 百メートル走と戦闘機の例から、重量感とスマートさとの対比が行われている点を確認する。
    本文の展開は具体例→主張、という繰り返しで進んでいる。何が「必要」かは実際の要請において決まってくるが、筆者の主張は、「美的考慮」から生まれる先入観を排する点にある。美は後から見出されるものとしてある。スマートさと重量感とをそこに関連させて解釈することが可能だろう。
  2. 筆者の「文化」「伝統」といった言葉に対する考え方と「必要」との関係を理解する。思判表
    「必要ならば、法隆寺を取り壊して停車場を作るがいい」「それが真に必要ならば」といった条件表現に留意する。本文は、それぞれの読者に「では何が真に必要なのか」を問うていることが読み取れる。その上で、この文章が「文化」論だったことを想起させ、「猿まね」を「独創と同一の優越」に並べるものがこの「必要」というモチーフであることに着目させるとよい。
まとめと発展
  1. 再度本文を通読し、各段落ごとに、主旨をまとめさせる。
  2. 筆者の文化観について、話し合わせる。
  1. 全体を再度通読し、各段落ごとの要旨をノートに書く。
    それぞれ五十字から百字のあいだでまとめさせる。何人かの生徒に板書させ、一つ一つについて皆で検討し、よりよいものに仕上げていく過程を共有させてもよい。
  2. その上で、本文全体の要旨をまとめ、ノートに書く。
    二百五十字前後でまとめさせること。
  3. 筆者の主張する「真の必要」や文化観について、疑問も含め、話し合う。筆者の主張を知ることで、各自の文化観や伝統観がどう変わったかを話し合う。主態
    生徒に「真の必要」について問うと、千差万別な答えが返ってくることが予想される。それらが単純な自己肯定ではなく、習慣的に形成された自らの「美」の見方に対する批判的な問いかけへとつながることが重要である。「いったい、ほんとに美しいのかしら」(三九八・6)といった文に改めて注意を促しながら、無自覚に「文化」や環境を受容するのではなく、それが「真に必要」かどうかを常に検討し続けることの重要性を考えさせてみてもよいだろう。

現代日本の開化夏目漱石

導入
展開
まとめと発展
印刷
目次
指導上の重点目標 学習活動
導入
  1. 夏目漱石の文学的業績を学習させる。
  2. 明治以降の日本の歴史的状況を確認させる。
  3. 本文の主題を確認させる。
  1. 明治四十四年の日本の状況を学び、その年表と対応させて夏目漱石の文学活動を学ぶ。知技
    すでに他の教材で夏目漱石の文学的業績を学習している場合は簡単に復習する。
    明治維新以降、日本が急激に西欧化を進め、日英同盟、日露戦争、日比谷焼き討ち事件など、当時の国民の「一等国意識」も紹介し、あわせて日露戦争後に作家活動を始めた漱石の文学史に触れていきたい。
  2. 日露戦争後の「一等国意識」と対比させ、当時の開化に対する漱石の言及を他の小説などから学び、主題を知る。
    ❶の日本の状況を踏まえ、「開化」に関する言及のある「三四郎」、「それから」などの該当箇所に触れる。関連する箇所は後段【参考文献】・【参考】に詳しい。一連の言及から、現代日本の開化に対する漱石の問題意識(主題)を示す。
展開
  1. 日本の特殊な開化状況を解説する。
〈第一段〉(初め~四〇六・下8)
  1. 「内発的開化」、「外発的開化」の定義をおさえる。
    一般の大衆向けに行われた講演であるため、漱石は教材全体を通して多くの比喩表現を使い、分かりやすく説明している。比喩表現がそれぞれ何を説明しているものなのか、生徒に考えさせたい。
  2. 日本がなぜ「外発的開化」にならざるをえないのか、理由を第一段落から読み解く。
    四〇六・上段十四‐十六行目の「労力節約」・「積極的に活力使用」などは教科書未収録部分に該当、【構成❷】を参照する。時間があれば、この箇所も生徒に紹介しておくと、開化全体をめぐる問題意識が俯瞰的に理解させられる。この教科書収録部分はあくまで「現代日本」に限定した話。
  1. 「内発的」な個人の意識推移を集合意識、時代の意識、開化の流れにそれぞれ適用する。
〈第二段〉(四〇六・下10〜四〇九・上5)
  1. 個人の意識の推移の理屈を理解する。「読書」の例。
    「意識の推移」については、漱石文学の一つのキーワードである。『坑夫』、「文芸の哲学的基礎」や『文学論』に詳しいが、内容・時間的に紹介するのは厳しい。
  2. ❶を集合意識に応用する。「講演」の例で理解を深める。
    「講演」の例は、段落後半部分にも登場し、そこでは「内部欲求」による自然な推移=「内発的」に触れている。「内部欲求」に従うことが「内発的」であることも、あわせて確認させたい。
  3. ❶を時代の意識に応用する。
    「日露戦争の意識」には当時の世相・言説を紹介してもよい。
  4. ❶~❸を踏まえて開化も同様に「内発的」であるべきだという推論を学ぶ。
    開化も同様に「内部欲求」により自然に行われるべきものである。「講演」の例が「内発的/外発的」と絡めて説明しやすい。開化の流れは図示。【語句の研究】参照。
  1. 日本の開化の特殊性を解説する。
〈第三段〉(四〇九・上7~四一〇・上2)
  1. 「内発的開化」の在り様を再度おさえて、日本の開化の特殊な現状をまとめる。
    ここでは再び「内発的開化」の定義、説明がされている。この段落の構成は日本の開化について説明している箇所だが、「日本の開化は~~だ」というのは後半部分であり、前半は「開化とは~~とあるべきだが、日本はそうではない」という説明の仕方である。
  2. 比喩表現が何をたとえているかを確認する。
    「天狗にさらわれた男」や「借り着をして世間体を繕っている」などが何を指しているか。また対の関係になっている比喩などを確認させる。
  1. 「外発的開化」の国民への影響を解説する。
〈第四段〉(四一〇・上3~四一二・上16)
  1. 「外発的開化」の影響を受ける国民についてまとめる。
    冒頭「不満の念と不安の念を抱かねばなりません」とあるように、「なりません」のに「ハイカラ」である一等国意識で浮かれる世情への批判も読み取る。このあたりは未収録部分の講演の目的に沿っている。詳しくは【構成❷】を参照。
  2. ❶であるのに、「外発的開化」を余儀なくされる理由をまとめる。
    「西洋流の開化」をしなくてはいけないのは西洋の方が「強い」からであると、はじめて明確に示される。反対に「内発的」に「西洋流の開化」をすると「神経衰弱」に陥るという、どのような道を選択しても幸福ではない理屈を整理し、第五段落の「言語道断の窮状」につなげる。
  3. 「皮相上滑りの開化」という語を理解する。
まとめと発展
  1. 漱石の「外発的開化」の現状への評価とその対応案を解説する。
  2. その他の着眼点【鑑賞/解説】を参照し紹介する。
〈第五段〉(四一二・上17~終わり)
  1. 「言語道断の窮状」とはどのような状況かを学ぶ。時間があれば全体を踏まえた上での記述をする。
    「言語道断の窮状」については記述問題で書かせたい。❶日本の皮相上滑りの外発的開化による国民への弊害と❷それを避けようとすると「神経衰弱」になる、という二つの窮状を整理させた記述を書かせる。「滑るまい」などの比喩を正確にとること。
  2. ❶を踏まえて漱石がどのように対応すべきと考えているかを確認する。思判表
    漱石が講演の最初に、人々が「開化」、「現代日本の開化」についてあまりよくわかっていないため、このテーマにしたと述べている点からも、この講演は批判というよりは自分を含んだ日本国民への同情的なまなざしがあることも説明する。
  3. 漱石のアジア・植民地への視点についても学ぶ。
    他の講演との関連性を知り、開化の弊害の全体像を学ぶ。
    主態
    時間的余裕があれば、漱石のアジア・植民地への視線などを紹介し、漱石の考えがすべて「現代日本の開化」に収まってはおらず、揺らいでいることを紹介したい。佐藤泉が述べるように、その揺らぎこそ明治の知識人に通底するものであり、過度に神格化せずに、明治という時代の固有性を学ばせたい。
閉じる